国や地方自治体、有事にどう対処? 島原で長崎県内初の「域外避難訓練」

「海きらら」も有事の際の避難施設に指定されている=佐世保市

 国、長崎県、島原市は6日、国民保護法に基づき、テロを想定し住民が避難する県内初の「域外避難訓練」を同市で実施する。同法の施行から約20年。北朝鮮が連日のように弾道ミサイルを発射するなど、日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増している。こうした状況の中、国や地方自治体は有事にどう対処しようと考えているのか探った。

 国民保護法は、武力攻撃を受けた場合(武力攻撃事態等)や大規模テロが発生した際(緊急対処事態)に国民の保護、被害を最小にするため、国や地方公共団体などの役割分担や国民保護計画などについて規定。本県内でも自治体が同法に基づき「国民保護計画」を作成している。
 島原市の訓練を例にすると、国が武装勢力の潜伏可能性が高いと考え、緊急対処事態に認定し避難措置の指示、避難地域まで指定する。より詳細な避難先や避難手段などは自治体が調整する仕組みだ。
 訓練では省略するが、実際の対応では避難先との調整や避難に必要な運輸機能の確保などが求められる。元陸将補で日本大の吉富望教授(安全保障・危機管理)は「遠くへ逃げるか、移動(避難)するリスクを考えるか。その判断をできるようにするため国が訓練をすべきだ」と指摘する。
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 今回の訓練はなぜ島原市で行うのか。元陸上自衛隊幹部で県危機管理課の福岡和博参事は「島原市がどうこうではない。各自治体が避難などの対処ができるようにしておくためだ」と説明。「絶対に『ここでは有事は起きない』ということは誰にも言えない」と続ける。
 安全保障の問題が顕在化してきたのに合わせるように、福岡参事と同様に地方自治体の防災関係部局に退職自衛官が在職する数は年々増加している。1998年度は全国で2人だったのが、2021年度には601人に。危機管理能力や自衛隊との連携向上への期待を背景に「ニーズが高まっているのではないか」(防衛省)という。
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 有事の際の避難施設は、都道府県知事などが指定する。県内では約2200カ所が指定され、佐世保市の九十九島水族館(海きらら)など地下がある施設も4カ所含まれている。避難施設を巡っては、台湾海峡や南西諸島での有事を想定し、政府が「シェルター」の整備を検討しているとの報道も出たが、内閣官房は「現時点では具体的な整備検討はしていない。調査、研究についても、特定の地域を想定したものではない」としている。
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 安保環境の厳しさが叫ばれる一方、外交での解決の行方はどうなっていくのか。吉富教授は「今は戦争になっていないので『外交はうまくいっている』とも言える」と分析。その上で「最悪の事態を避けることが外交の最低限の目標。どこを落としどころにしていくかが大事ではないか」と語る。


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