ビンテージビル

 ふすまを外した押し入れ。その上段に陳列されたレトロな怪獣の人形で子どもが遊んでいる。長崎市の旧県営魚の町団地(鉄筋コンクリート4階建て)の見学会を訪ねると、そこには昭和の空気が満ちていた▲複数の部屋が開放され、室内装飾やリノベーション(改修)の実演もあった。同団地は戦後建設され、老朽化で近年閉鎖。耐震性は確保されており、再活用のアイデアを集めようと県などが企画した▲昭和世代には懐かしく、どこかほっとするビルだが、出展したグループの主宰者は「若い世代にとっては新しい空間ですよ」▲くすんだ壁、畳の間取り、使い込まれた作り付けの木製棚、摩耗した敷居、低めの天井-。建物は時代の流れの中で劣化していく一方、味わいや風格が出てくることもある。「ビンテージビル」と呼ばれ、都会では古さに価値を感じて入居を希望する人が増えているらしい▲そんな流れも踏まえ、県は今後、試験的に部屋を貸し出したり意見を集めたりした上で、部屋を活用する事業者の公募や改修へと進めたい考え▲各部屋が狭苦しいか落ち着くか、感じ方は人それぞれだろうが、古いからといって取り壊さず、新しい発想を募って再生させる試みはなんだかワクワクさせられる。市民が文化に触れ、くつろげるような場になるといい。(貴)

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