日本人学校で平和教育 教師の山口さん(諫早出身) 児童の反応、想像以上

ベトナムの日本人学校で平和教育に取り組んだ山口さん=ホーチミン市(本人提供)

 日本から遠く離れたベトナム・ホーチミンの日本人学校で、平和教育を始めた教師がいる。文部科学省の事業で4月に派遣された諫早市出身の山口歩さん(28)。「海外で学ぶ日本人の児童にも原爆や太平洋戦争の歴史を知ってほしい」。そんな熱意が山口さんを動かしている。
 山口さんは長崎大教育学部を卒業後、県内の小学校で6年間勤務。児童に英語を教えるにあたり、自身の英語力を向上させるため同省の派遣事業に応募。4月からホーチミン市の日本人学校で教壇に立つ。
 同校(小・中学部)には計約500人が在籍している。主に同市周辺で暮らす日本人の子どもたちだ。山口さんは小学3年生の1学級18人を受け持つ。
 7月中旬、市内の戦争証跡博物館を訪れた際、ベトナム戦争の歴史などについて、高校生が英語で観光客にガイドをしている姿に触発された。「若者が平和について発信していて素晴らしい」。日本人学校のクラスで「戦争って知ってる?」と尋ねると、手を挙げたのは3分の1程度。長崎にいる時、平和教育は当たり前のように身近にあったが、海外ではそうではなかった。「自分がやらなきゃ」。山口さんは強くそう思ったという。

山口さんが制作した掲示物

 今年の平和祈念式典や長崎の小学生の平和活動を紹介した新聞記事、太平洋戦争と原爆についての概略を掲示板4枚分にまとめ、9月にクラスで授業をした。さまざまなルーツを持つ児童に考慮し、政治的なことには触れず、事実だけを伝えた。
 児童の反応は想像以上だった。ある子は「来年の8月9日は長崎のことを思い浮かべる」と言い、家庭で親から詳しく話を聞いたという子もいた。せっかくなら他の学年の子どもたちや教師にも見てほしいと校内に掲示すると、さらに反響があった。日本各地から派遣されている教師間で各県の平和教育について意見交換することもできた。
 来年の構想も膨らむ。「平和祈念式典の様子を見せるとか、受け持つ学年によって何をしようかと考えています」と山口さん。平和教育を通じ、子どもたちには自分と周囲を尊重し、「自分の気持ちを大切に表現できる子」になってほしいと願っている。


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