ゲームへの敬意

 〈うっかりやらかした失敗〉を言う「チョンボ」は元々マージャン用語で、「上がり」の牌を間違えたり「役」がないのに上がりを宣言したりする行為を指す言葉だ。中国語では「錯和」と書く▲例えば、阿佐田哲也さんの小説「麻雀放浪記」には、このゲームで勝つために手段を選ばない人々が次々に登場する。しかし、金を1円も賭けない競技マージャンの世界はとてもフェアでクリーンだ▲トッププロが競う「Mリーグ」の対局で一昨日、こんな場面があった。牌山から牌を持ってくるのを忘れたまま、手から不要牌を切ろうとした対局者に、別のプレーヤーが声をかけた。「取ってませんよ」▲少し補足が必要かもしれない。手牌が足りなくなっても「チョンボ」ではないが、その局で上がりに向かうことはできなくなる。その局面の損得だけを考えたら、相手の「うっかり」は、いったん放置する方が得だ。競争相手が1人減る▲技量以外の要素でゲームが歪(ゆが)むことや、熱戦の興がそがれることを嫌ったのだろう。ゲームへの敬意や愛情を感じた-と言ったら大げさだろうか▲少し前に書いた将棋の対局のことを思い出している。相手のマスク不着用を「ルール違反」と主張する前に、その場で着用を促す発想があったら、棋譜は台無しにならずに済んだ。(智)


© 株式会社長崎新聞社