はんこ発言

 自分の欠点や失敗談を面白おかしく誇張して語ったり、「こんな人いるよね」とか「ああ、言われてみれば…」と皆の共通体験をくすぐったり。「笑い」の基本は「自虐」と「あるある」-という説をどこかで聞いた覚えがある▲本職のお笑いにもこの種のネタはあふれているから、ある程度、的を射た分析ではあるのだろう。ただ、この“笑いの方程式”は万能ではない。葉梨康弘法相の「死刑のはんこ」発言はその典型例▲発言は「法相は地味な役職だ」という彼なりの自虐と「死刑の執行は昼のニュースでトップになる」という“あるある”の足し算でできている▲だが「死刑」は、国家が究極の選択の末に個人の生命を奪う行為だ。制度の存廃にも議論がある。そこに関与する役割を自ら軽んじて笑いの種にする感覚は理解できない。担当閣僚としての適性を疑う声は当然だ▲発言の一部を切り取られた-と一時、反論した。でも、どこをどう切り取っても問題発言だった。“法相になっても金や票は集まらない”とも述べた。発言は撤回されたが、口から出た言葉は消えない▲首相は「説明責任を徹底して果たす」ことなどを指示したようだ。どんな説明が可能なのかは知らない。そしてこの言葉自体は、少しも笑えない“内閣あるある”になりつつある。(智)

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