東京都内で探偵会社 社長の男らが逮捕されました。
精神疾患のある男性に、「電磁波攻撃をしている犯人を特定しましょう」などと言って、契約料を不正に得た疑いが持たれています。
草津病院 佐藤悟朗 理事長・院長
「氷山の一角だろうと思います」
総合探偵社 フォーチュン広島 重川亮 代表
「今回の逮捕は氷山の一角」
きょうのテーマは、「悪徳探偵は許せない! 『 “電磁波攻撃” 解決』うたうビジネスとは?」。
精神疾患(こころの病気)で病院に通院や入院をしている人たちは、今、国内でおよそ420万人とされています。日本人のおよそ30人に1人の割合です。一説には生涯を通じて5人に1人がなにかしらのこころの病気にかかるともいわれています。
その中でも特に妄想や幻覚などの症状に苦しむ人を狙った犯罪について深掘りします。まずは、どのような犯罪なのか。先週、東京で発覚した事件でおさらいします。
今月2日、東京の探偵会社 社長の男らが、警視庁に逮捕されました。
彼らは、おととし、精神疾患のある男女から「電磁波攻撃を受けている」「携帯電話がハッキングされている」などと相談を受けた際、正常な判断ができない弱みにつけこんで、あわせておよそ80万円の契約料を不正に得た疑いが持たれています。
この探偵社は、ホームページ上で「電磁波攻撃」「思考盗聴」などの相談事例を紹介し、相談を受け付けていました。
探偵会社の社長の男は調べに対して、「精神疾患があるとは思っていなかった」と容疑を否認しているということです。
草津病院 佐藤悟朗 理事長・院長
「氷山の一角だろうと思います」
精神疾患のある男女が探偵に調査を依頼したという「電磁波攻撃」や「思考盗聴」…。草津病院の理事長で精神科医の佐藤院長は、同様の悩みをもった患者は多いと言います。
佐藤悟朗 理事長・院長
「精神疾患としては妄想性障害であるだとか統合失調症という疾患が一番疑われる疾患になると思います」
電磁波攻撃や頭の中の盗聴をされていると思い込み、悩んでいる人は、それを病気とは思わず、なんとしても解決したいと、病院に行くよりも寄り添ってくれる探偵を頼ってしまうというのです。
佐藤悟朗 理事長・院長
「『盗聴されているから盗聴器を取り外してあげましょう』と。電磁波攻撃を受けているのであれば、電磁波をブロックするようなモノを売りつけることができる」
「そうすれば、(被害者)本人は一時的には安心する。だましやすい。医療従事者としては病気につけ込んでお金を搾取するっていうのは本当に許せない」
しかも、「被害」はなかなか発覚しません。
草津病院 佐藤悟朗 理事長・院長
「(だまされていることに)ご本人も気づかない。そういうことは、たくさんあるんだろうと思います」
精神疾患を持つ人たちを狙ったとされる今回の事件―。専門家によりますと、同様の事件はこれまで表沙汰になりにくかったとされています。なぜなのでしょう。
理由の1つに、被害者に「被害の自覚がない」場合が多いことが挙げられます。病気だという認識がないまま、妄想や幻覚の症状に苦しむ人たちにとって、探偵は味方であり、理解者。調査料が仮に法外なものであっても、本人としては納得したうえで支払うことが多いのだそうです。
実際、警視庁は、この探偵会社はほかにも精神疾患がある人から合わせて215件の契約を結び、およそ1億3000万円を不正に得たとみています。
探偵会社による精神疾患がある人を狙ったビジネスに対して、長年にわたって警鐘を鳴らし続けている探偵が広島にいます。今回の事件をどう感じたのか、取材しました。
総合探偵社 フォーチュン広島 重川亮 代表
「一部にはそういった探偵社は存在しています。やっぱり許せない」
広島市西区にある「総合探偵社フォーチュン広島」の代表・重川亮さんの元にも「電磁波攻撃」や「思考の盗聴」という相談が持ち込まれます。
重川亮 代表
「月に3~4件は(そういった相談が)あります。自分が考えていることが社内や学校などでみんなにバレていると」
「もしかしたら頭に何らかの機械を埋め込まれていて、どこかに受信器があって、それを聞かれているんじゃないかと」
重川さんは、妄想や幻覚などに悩む依頼者を医療機関につなげる活動を20年にわたって続けています。きっかけは、ある若い男性からの盗聴器の捜索依頼でした。
重川亮 代表
「(依頼者の部屋の)壁中・天井中に穴が開いていたんです。自分で盗聴器を探そうとしたんでしょうね」
結局、男性の部屋から盗聴器は見つかりませんでしたが、それから数か月後…。
重川亮 代表
「男性のお母さんから相談があって、『実は息子は納得してなくて、ほかの探偵社にまた盗聴器の捜索を依頼した』のだと」
「『そこで数百万円くらいをとられてしまった』と。ちゃんと最後までケアしないと、悪質な探偵社の被害、『カモ』になってしまうんだなと」
以来、重川さんの紹介でこれまでにおよそ60人が通院するなどの医療措置を受けることができたといいます。
インターネット上では「電磁波攻撃」や「思考盗聴」の解決をうたう探偵会社が多く見つかります。重川さんの活動は、同業者から疎ましく思われることも多いそうです。
総合探偵社 フォーチュン広島 重川亮 代表
「(探偵の)イメージが悪化するのが許せない。今回の逮捕は氷山の一角で、今まで逮捕に至っていないケースの方が圧倒的に多かったと思う」
精神疾患のある人が自覚しないままに狙われる悪質なビジネス。佐藤院長は、気づいた人が、まずは専門の医療機関に相談してほしいといいます。
草津病院 佐藤悟朗 理事長・院長
「本人にとって(電磁波攻撃などの妄想は)すごくつらい体験。家族として『あなたが、こんなつらい体験をするのは見過ごせない。少しでも光が差すようなことがあれば、やはり病院には一度相談に行ってみるべきじゃないの』という説得の仕方がいいと思う」
― 探偵の重川さんは、精神疾患に対して社会全体がもっと関心を持ってもらえたら、と専門誌に連載をするなど活動を続けています。
― 精神科医の佐藤院長によりますと、まずは専門の病院やクリニックに相談を、とのことです。
― 病院などに抵抗感がある方は、役所の保健センターなどに相談する方法もあります。ご本人が難しいようであれば、家族だけでも、まずは動いてみることが大切だということです。