「何もない」から「何かある」へ…人口減少続く古里に活気を、地元有志の挑戦 福井県福井市美山地区

福井県福井市美山地区の活性化に取り組むTMRのメンバー(TMR提供)
家族連れら約千人の来場者でにぎわった「ミヤマルシェ」=福井県福井市獺ケ口町

 廃止施設の駐車場に、入場待ちの長い車列ができた。福井県福井市美山地区の旧ごっつおさん亭(獺ケ口町)で9月に開かれた「ミヤマルシェ」。地区人口の約3分の1に当たる約千人が訪れた。古着やアンティーク家具などが並ぶ物販、飲食ブースの出店者は、美山にゆかりのある人ばかり。来場者は知り合いを見つけては話に花を咲かせた。孫を連れた住民は「久しぶりに、にぎわいが感じられた」。

 イベントを仕掛けたのは、20~50代の地元有志でつくるTMR(TEAM MIYAMA RePRODUCTION)。美山地区は人口減少に歯止めがかからず、学校の統廃合も取りざたされている。子育て世代が中心のメンバーは「子どもたちのためにも、このまちで何かできないか」との思いが強い。

 活動コンセプトは「『何もない』から『何かある』へ」。メンバーから「ボス」と呼ばれる代表の藤田託也さん(38)は「福井市街と大野の間で素通りされてしまう地区に、『何か』をプラスして、足を止めてもらえるまちにしたい」。山と川の間に集落が点在し、自然をじかに感じる営みが息づく。そんな古里を活気づけようと挑戦を続ける。

第1弾「マルシェ」に手応え、農産物ブランド化も

 美山地区が抱える課題の一つが、農家の高齢化と担い手不足による耕作放棄地の増加。地区の活性化を目指す地元有志グループ、TMRは、耕作放棄地でイノシシやシカなどの獣害が少ないとされるニンニクの栽培を試験的に始めた。

 代表の藤田託也さん(38)は「農業のことは素人だけど何事も挑戦」と語る。9月下旬、メンバーが同市西河原町の1アールの畑に集まり、耕運機などで耕し、種の植え付けに向けて肥料をまいた。初年度は約1200個の収穫を見込み、3年後の本格販売に向け徐々に増やす青写真を描く。

 山間部の朝晩の寒暖差を生かして品質を高め、ブランド化を目指す。収益はTMRの活動資金に充てる考え。藤田さんは「ボランティアで続けるには限界がある。しっかりと運営を考えたい」と継続性も意識している。

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 TMRがイベントの第1弾として開いた「ミヤマルシェ」には約千人が来場し、藤田さんは「地区の人から『良かったよ』『また、やって』と声をかけてもらえた」と喜ぶ。メンバーも「一時的でも、美山の関係人口を増やせたことは次につながる」と手応えを感じている。

 フリーマーケットに友人と2人で出店した坂井市の山内美緒さん(39)は「今まで美山を散策することがなかった。今後は温泉などに行ってみたい」。

 TMRは今後、美山地区全域で同時多発的にマルシェを開くことも計画する。各会場を周遊してもらい、それぞれの地域の魅力を感じてもらう狙いだ。足を止めてもらえるまちへ、“種”をまいていく。

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 TMRのメンバー最年長で飲食店経営の竹下美樹男さん(54)は、長男の小学校入学を機に、福井市街地から美山地区の市波町に移住し、10年がたった。「落ち着いた町の雰囲気が肌になじんだ。福井市街からのアクセス、自然との距離感がちょうどよく、足を止めてもらえたら気に入る人も多いのでは」

 藤田さんは「若者が美山から出ていくのが当たり前」という風潮を憂う。地区で生まれ育った人も、外から訪れた人も、ずっと美山に。メンバーたちと会合を重ね、冬の雪遊びや老若男女が楽しめるスポーツイベントなど、美山にプラスする「何か」を探して意見を出し合う。「何もない」からこそ「何かある」に変化したときのインパクトは大きいはず。チームでなら「何か」ができると信じている。

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