豊田が初出場V 冨井は女子大会新 おかやまマラソン

男子で初出場優勝を果たし、ゴールテープを切る豊田紘大(左)と大会新で女子初優勝を飾った冨井菜月=シティライトスタジアム

 3年ぶりとなる「おかやまマラソン2022」は13日、シティライトスタジアムをゴールに岡山市街地を巡る日本陸連公認コースで行われた。男子は初出場の豊田紘大(岡山・岡山商大付AC)が2時間18分31秒で栄冠をつかみ、女子は冨井菜月(東京・PTC)が2時間48分10秒の大会新で初優勝を飾った。

【写真館】ゴールシーンや沿道応援風景

 豊田は最終盤の41キロ付近でスパートし並走する選手を振り切った。男子の岡山勢の優勝は第1回大会(15年)以来。冨井は序盤から独走し、従来の大会記録(2時間49分5秒)を大幅に更新した。

 男子は豊田と7秒差の2位に山口純平(東京・ELDORESO)が入り、森田雄貴(岡山・東京大)が3位。女子は高野温菜(東京・PTC)が2時間49分33秒で2位となり、3位は篠崎理紗(埼玉・不動岡ク)だった。岡山勢の最高は4位の楢崎由麻(岡山・UDC)。

 スタート時(午前8時45分、ジップアリーナ岡山前)のコンディションは雨、気温16.2度、湿度78%。無風。

豊田、ラスト1キロでギア

 ラスト1キロ。母校で勤務先の商大付高の校舎が豊田の目に入る。ギアチェンジの合図だった。「みんなにいいところを見せたい」。並走していた山口を一気に突き放し、そのままゴールへ。男子で初出場優勝の快挙を達成した24歳は「この大会で勝つのが目標だった」と表情を崩した。

 前半は先頭集団の後方につけて体力を温存した。山口との一騎打ちとなった37キロ以降、「相手がペースを上げてきつかった」と言うが、狙い通りの後半勝負でデッドヒートを制した。序盤のオーバーペースで失速したのは8月の北海道マラソン。その反省を生かし、2度目のフルマラソンで自己記録を約18分も短縮した。

 岡山市出身。商大付高から進んだ大東文化大で「箱根駅伝出場」の夢はかなわなかった。新たなモチベーションを与えてくれたのがおかやまマラソンだった。学校の事務職員の傍ら、陸上部の後輩を指導し自らも練習。休日には競技仲間と百間川の河川敷を30キロ走り、スタミナを養った。

 「コース沿道で応援してくれた教え子の姿に元気づけられた」。周囲への感謝も忘れない好青年は、来年2月の「そうじゃ吉備路マラソン」で連勝を狙う。

冨井「恵みの雨」独走態勢

 曇り空を吹き飛ばすような満開の笑顔でゴールに飛び込んだ。女子を制した26歳の冨井は「まさか優勝できるなんて。最高の思い出になる」。大会記録を1分近く塗り替える2時間48分10秒の好タイムでフルマラソンでは自身初の戴冠だ。

 あいにくの悪天候にも「涼しくて走りやすい。恵みの雨」。序盤から快調に飛ばしてスタート早々に独走態勢を築く。沿道の途切れない応援も力に変え、ペースを落とさず男子選手を次々と抜き去った。

 悲願だった「2時間50分切り」の達成が最大の収穫だ。東京・皇居近くのランニング拠点施設で働く市民ランナーは、3年前に掲げた目標をクリアできずに苦しんでいた。初出場した2019年に好感触をつかんだおかやまマラソンにターゲットを定め、1人でトラックを25周するなど精神面も鍛錬。「ここに懸けていた。呪縛から解放された」と涙ぐんだ。

 走ることは子どもの頃から大好きだったが、強制されるのが嫌いで日体大時代はサークルに入り、汗を流した。「タイムを追うのはきょうで最後。今後はもっといろいろなことにチャレンジしたい」。岡山路で得た自信を胸に、自由に楽しくマイウェイを進んでいく。

山口、4年越し雪辱ならず

 懸命の追走も、目の前に見える背中に届かなかった。トップとはわずか7秒差。2大会連続の2位となった男子の山口は「負けはしたが、終盤までレースを引っ張れた。やりたい走りはできた」。表情には悔しさと充実感が入り交じる。

 ラスト4キロで突き放されたのは前回2019年大会。東京のアパレル会社に勤める大卒4年目は「ロングスパートに対応できるように」とフルタイムで働きながら毎日1人で20~30キロを走破し、力を蓄えてきた。この日は序盤から集団の先頭に立ち、残り1キロまでレースの主役を演じた。

 山梨学院高、国士舘大で長距離に打ち込み、今夏は100キロの世界選手権(ドイツ)で銀メダルに輝いた25歳。4年越しの雪辱はかなわなかったが、「互いの頑張りが良いパフォーマンスにつながった」。ゴール後に優勝した豊田らと笑顔でたたえ合う姿はすがすがしかった。

高野、初岡山路ピッチ淡々

 「最低限の走りはできたかな」。自己ベスト(2時間46分2秒)の更新には届かなかったが、女子の高野は初の岡山路で2位と健闘した。

 「自分のペースを守るのに徹した」。序盤から1キロ約4分で淡々とピッチを刻み、25キロ過ぎに前を行く選手をかわして2位に浮上した。30キロ付近でランナーを激励していた「憧れ」の五輪メダリスト有森裕子さんとハイタッチを交わし、パワーをもらった。

 「ジャージーがかっこ良かったから」と中学から競技を始めた27歳。順天高(東京)では全国高校駅伝も経験した。「走ると楽しくて」と社会人になってからもランニングクラブに所属し、休日に20キロ程度走り込む。

 ゴール後は同じクラブで「妹のよう」という一つ下の冨井と抱き合ってワンツーフィニッシュを喜んだ。「来年は自己記録を出して勝ちたいですね」。柔らかな口調の中に負けん気の強さがのぞいた。

森田、粘りの走りで表彰台

 初挑戦の大会で終盤まで先頭に食らい付いた。「持てる力は出し切れた」。男子3位の森田は、自己記録も1分30秒以上更新し、笑みをこぼした。

 一宮高、東京理大を経て今春から東大大学院でスポーツ科学を専攻する22歳。「疲労がたまりにくい食事などを研究し、今回のレースでも生かせた」と話す。37キロ付近で先頭の豊田と山口に引き離されたが、地元の声援を背に、粘りの走りで表彰台は譲らなかった。

 東大陸上部に籍を置く“文武両道”のランナーは「来年は必ず1番になりたい」と再チャレンジを約束した。

篠崎44度目フルも楽しく

 前回と同じ女子3位でフィニッシュした篠崎は「タイムや順位は気にせず楽しく走れた」と満足そうだ。

 全国各地のレースに出場し、フルマラソンはこの日で44度目。先頭が序盤から飛び出す展開にも経験豊富な30歳は冷静だった。腕時計をほとんど見ることなく、トレーニングで体に染みこませた5キロ20分台で押した。

 埼玉県在住。同じ大会はあまりリピートしないというが、おかやまマラソンは3度目。「沿道の声援が温かいので気持ちよく走れる。次回は自己ベストと優勝を狙いたい」。これまでとは違い、結果を追い求めるつもりだ。

男子で2大会連続の2位に入った山口純平(左)と女子で準優勝した高野温菜
森田雄貴(左)と篠崎理紗

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