「過剰債務率」29.8%、「過剰貯蓄率」14.7% ~ 第10回「過剰債務に関するアンケート」調査 ~

  コロナ禍の緊急避難的な資金繰り支援と業績回復の遅れで、過剰債務が大きな経営課題に浮上している。東京商工リサーチのアンケート調査で、自社が「過剰債務」と回答した企業は29.8%に達した。
  内訳は、「コロナ前から過剰感がある」は12.1%、「コロナ後に過剰となった」は17.7%で、前回(2022年10月)の30.8%から1ポイント改善したが、依然として3割の企業が「過剰債務」から脱け出せずにいる。

 「過剰債務率」が高い業種は、「宿泊業」67.8%、「飲食店」65.2%、旅行やブライダルなどを含む「その他の生活関連サービス業」62.9%など、対面型サービス業が目立つ。映画館やパチンコホール、フィットネスクラブを含む「娯楽業」も54.5%で高く、コロナ禍での感染予防意識や新しい生活様式の広がりが影響していると思われる。
 また、今回初めて「過剰貯蓄感」を聞いた。「コロナ前から貯蓄過剰」は7.9%、「コロナ後に貯蓄過剰」は6.8%で、合計14.7%の企業が余剰資金を抱えていることがわかった。
 業種別では、「飲食店」36.3%、「非鉄金属製造業」26.0%、「不動産取引業」24.3%、などで「過剰貯蓄」と回答した企業が多かった。コロナ禍での営業自粛に加えて、時短営業や休業などに伴う協力金、補助金等があった飲食店は、「過剰債務」、「過剰貯蓄」ともに比率が高く、規模や客足の戻りなどで経営の二極化が広がっていることを示している。全体の「過剰貯蓄率」は14.7%で、今後はこうした余剰資金を企業の成長投資に促す税制や制度の枠組みも必要だろう。

  • ※本調査は、2022年12月1日~8日にインターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答4,686社を集計・分析した。
    前回調査は、2022年10月18日公表(アンケート期間:10月3日~12日)。
    資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業等を含む)を中小企業と定義した。

Q1.貴社の債務(負債)の状況は、次のうちどれですか?(択一回答) 

中小企業の3社に1社が「過剰債務」

 本調査は、負債比率や有利子負債比率など財務分析の定量数値に限定せず、債務の過剰感を聞いた。  「コロナ前から過剰感」は12.1%(4,686社中、569社)、「コロナ後に過剰感」は17.7%(832社)で、合計29.8%が「過剰債務」と回答した。
 規模別で、「過剰債務」との回答は大企業が15.9%(615社中、98社)に対し、中小企業は32.0%(4,071社中、1,303社)と、2倍の差が開いた。
 「過剰感があったが、コロナ後に解消」は、大企業は0.9%(6社)、中小企業は2.5%(105社)にとどまり、過剰債務の解消は進んでいない。

過剰債務アンケート

Q2.貴社の貯蓄(現預金、現金同等物など)の状況は、以下のどれですか?(択一回答) 

「過剰貯蓄率」、企業規模で大きな差なし

 現金や現金同等物など「貯蓄」の状況について聞いた。
 「コロナ前から過剰感」は7.9%(4,547社中、361社)、「コロナ後に過剰感」は6.8%(311社)で、合計14.7%が「過剰貯蓄」と回答した。
 規模別で、「過剰貯蓄」との回答は大企業が14.4%(589社中、85社)に対して、中小企業も14.8%(3,958社中、587社)で、規模間で開きが大きかった過剰債務率と比べ差はなかった。
 「過剰感があったが、コロナ後に薄らいだ」は、大企業が3.9%(23社)、中小企業が8.6%(342社)だった。

過剰債務アンケート

業種別「過剰債務率」「過剰貯蓄率」、上位に飲食店

 債務、貯蓄ともに、「コロナ前から過剰感」、および「コロナ後に過剰感」と回答した企業を業種別で分析した(業種中分類、回答母数20以上)。
 「過剰債務率」最高は、「宿泊業」の67.8%(28社中、19社)だった。以下、「飲食店」の65.2%(23社中、15社)、「その他の生活関連サービス業」の62.9%(27社中、17社)と続く。
 「過剰貯蓄率」最高は、「飲食店」の36.3%(22社中、8社)だった。また、資源価格や不動産価格の上昇を受ける「非鉄金属製造業」や「不動産取引業」が上位に入った。

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