180年前の「信牌」発見 江戸期、唐船の入港許可証 中国との結び付き物語る

見つかった12枚の「信牌」

 江戸時代に長崎へ来航する中国(清)などの貿易船「唐船」に発行された入港許可証で、180年ほど前の「信牌(しんぱい)」12枚が新たに見つかり、長崎市が10月に歴史資料として購入したことが18日までに分かった。実物はこれまでにほとんど確認されておらず、まとめて発見されるのは珍しい。貿易を通じた長崎と中国の緊密な結び付きや、19世紀の国際情勢が長崎のまちに与えた影響を物語り、古文書学の研究にも役立つと期待される。
 見つかったのは縦38センチ、横51センチの書状。幕府の「鎖国」政策により、オランダ船と唐船が来航していた長崎で、中国側との貿易交渉に当たった通訳「唐通事」が長崎奉行の命を受けて発行していた。いずれも「信牌 長崎通商照票」と大きく記載され、発行した唐通事の名や貿易額、唐船の出港地、船主などが漢文で書かれている。
 信牌の発行は、金銀の国外流出を抑えるため、1715(正徳5)年に儒学者の新井白石の主導で幕府が出した長崎貿易の制限令「正徳新令」の一環。多い年で200隻ほどあった唐船の来航を30隻(91年以降は10隻)に限定し、唐船は前年に発行された信牌を持参しなければ貿易ができないようになった。発行は幕末まで続いたとされる。
 唐船が持ってきた信牌は回収後、偽造防止のため焼却処分したと推測され、長崎歴史文化博物館(同市)などに数枚現存するだけ。12枚には押印がないことなどから、作成したものの未使用で残ったものと考えられる。
 うち1枚には「天保十三(1842)年」の記述があった。当時の中国は清と英国によるアヘン戦争のまっただ中。長崎大多文化社会学部の木村直樹教授によると、唐船が海外へ出ることは難しく、信牌を作って準備していたが渡せないままになったとみられる。幕末期の安政、万延年間に発行されたものもあった。
 木村教授がインターネットオークションに出品されているのを見つけ、古書店を通じて市が購入した。木村教授は「アヘン戦争は知識人に衝撃を与えて幕府の改革や倒幕運動につながったが、同時に長崎では貿易ができなくなり、致命的で重要な問題だった。見つかった信牌は当時の長崎が世界の戦争に巻き込まれ、具体的にどういう影響が現れたのかを象徴している」と指摘する。


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