ダメなものはダメ

 「ダメなものはダメ」-。決然と語る表情を記憶しているのは、どれぐらいの世代からだろう。女性で初めて社会党委員長や衆院議長を務めた故土井たか子さんの決めゼリフ▲ところで、この“名言”には大切な前置きが省略されている。それは〈どんな言葉で説明されても〉とか〈多数決では私たちは勝てないけれど〉という語句だ▲政治学者の山口二郎氏が20年ほど前の評論で、土井氏を「戦後政治における数と『正しさ』の乖離(かいり)を象徴する政治家」と評している。〈最後は多数決でものを決める民主主義の冷厳な原則から目を背け、権力者を改心させることで自らの主張を実現しようと努めてきた〉のだ、と▲山口氏の土井評が100%の賛辞でないことには注意が必要だ。土井氏自身は、この言葉を「妥協のない反対の表明」と説明したことがあるが、現実には“万年野党の遠吠え”にしか聞こえなかった場面もある▲それでも、往年の名ゼリフが、今は何だか懐かしい。それは、財源確保策に唐突な増税や震災復興財源の転用を打ち出しながら語られる防衛力の強化や、先制攻撃との境界も専守防衛との関係も危うい「反撃能力」の保有が、どちらも「ダメなもの」の典型に映るからかもしれない▲首相の“改心”を願いながら書く。ダメなものはダメだ。(智)


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