<長崎この1年>『知事選』 541票差で世代交代 全国最年少の現職知事が誕生 

当選確実となり、報道陣に囲まれる大石氏=2022年2月20日夜、長崎市茂里町の県医師会館

 「『当確』の少し前まで負けるとは思っていませんでした」。今年2月の知事選で初当選した大石賢吾知事(40)に「勝つ自信はあったのか」と後日問うと、こう答えが返ってきた。報道各社が「当選確実」を速報したのは20日午後11時半ごろ。実はこの直前、陣営内で「負けた」との情報が流れ、大石氏の耳にも入っていた。だが最後は投票総数の0.1%、わずか541票差で3期目の現職中村法道氏(72)に競り勝った。政治・行政経験、知名度がほとんどなく誰も勝つと確信できない中、当の本人は自分を信じていた。
 知事選の構図に異変が起きたのは昨年秋。中村氏が「後継」と考えていた県幹部が急きょ諸事情で立候補できなくなった。中村氏の勇退を想定していた谷川弥一自民党衆院議員(81)=長崎3区=と金子原二郎農相・同党参院議員(78)=当時=が中心となり本県ゆかりの官僚らの擁立を模索したが、いずれも断られた。次第に中村氏が続投に傾く中、衆院選長崎1区、2区の自民公認候補の公募から漏れた大石氏に白羽の矢が立った。大石氏は五島市出身の精神科医だが、当時は東京で勤務しており、県内ではほぼ無名だった。
 このため自民内では大石氏支援に反発の声が強く、大石、中村両陣営に分かれての保守分裂選挙に突入。中村氏が新型コロナウイルス対策に専念するとして後半戦に入るまで街頭に立たない中、大石氏は各地を精力的に回り県のコロナ対策を批判しながら世代交代を訴えた。結果、全国最年少の現職知事が誕生した。
 それから約10カ月。大石氏は、中村県政時代に関係が滞っていた、石木ダム建設への反対住民や、九州新幹線長崎ルートの全線フル規格化のため理解を得る必要がある佐賀県の山口祥義知事と対話を重ねており、県議会の一部からは評価する声も聞かれる。ただ、いずれも解決の道筋は見えないまま。さらに来年2月には初めて本格的な新年度当初予算案を発表する。県勢浮揚の具体的なビジョンをどう描き出すのか。そこで一定真価が問われることになる。


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