長崎市庁舎

 長崎市の桜町庁舎が60年余りの役割を終え、年明けから近くの新築庁舎に引っ越す。閉庁まであとわずか。最後に思い出の場所を歩いた▲市役所が見える斜面地で生まれ育った。最も古い記憶は半世紀近く前の幼稚園の頃。祖母に連れられ、たびたび地下食堂に通った。味は覚えていないが、2人の大事なお出かけスポットだった▲本館の完成は1959年。国道を挟んだ別館はその7年後、2階建ての水道局を増築して今の形になったそうだ。これも園児の頃だったか、別館の地下で注射を打たれた記憶がある。以来、この薄暗い空間が何となく苦手だ▲入社後、長崎市政を担当。書類だらけの記者室を拠点に庁内を取材して回った。原爆が投下された都市。全国的な話題も多く、取材や執筆が深夜に及ぶこともあった▲お世話になった職員さんの多くが既に退職し、田上富久市長も今期限りでの引退を表明。通路を歩いていても、顔見知りと出くわすことはほとんどない。そういえば、今年は何かと世代交代のうねりを感じた1年だった▲公会堂跡の新天地は地上19階、坂の街も見下ろす高さだ。新年からこの建物で、そして春からは新たなリーダーのもとで市政運営が始まる。どんな歴史が刻まれていくのだろう。市民にとって、希望に満ちた幕開けになるといい。(真)


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