10年前閉店の魚屋、駄菓子屋として再オープン 真鶴、移住の俳優と学生ら奔走

鮮魚店魚喜代が生まれ変わった駄菓子店「ウオキヨ」で談笑するデビット伊東さん(左)と青木さん(右)、町民ら=25日、真鶴町真鶴

 真鶴港近くの旧商店街で約10年前に閉店した真鶴町の老舗鮮魚店が24日、再びシャッターを上げた。同町に移住しラーメン店を構える俳優のデビット伊東さん(56)の主導で、学生や町民らが力を合わせ、1年かけてオープンした駄菓子店だ。町の子どもたちの笑い声が響く街角から、伊東さんは「100年続く町を残したい」と奔走している。

 新鮮な魚などを取り扱っていた元鮮魚店「魚喜代」。港町に嫁いで半世紀以上同店を守ってきた青木久美子さん(80)は2011年、諸事情から店を畳んだ。青木さんが町に来た約60年前、港までの一本通りには薬局や青果店が複数並ぶ商店街「真鶴銀座」が栄え、「いつも人でにぎわっていた」という。閉店後に路地に立って感じたのは、「シャッター街に誰も歩いていない」というもの寂しさだった。

 伊東さんは20年に移住し、魚喜代近くにラーメン店「真鶴伊藤商店」をオープンさせた。伊東さんは店に立ちながら、「魅力を感じて引っ越してきた者として、町に恩返しをしていきたい」と町民らの声を熱心に聞いた。着眼したのは、「子どもが自分の親以外の大人とふれあい、学ぶ拠点がない」ということだった。「この小さな町では家族を大切にするなど温かな面がある一方で、町政が不安定で、学校教育にも限界はある。次世代に託せる環境をつくりたい」

 そんな理想像を聞いた青木さんは、「また前のような明るい商店街が戻ったら」と店をリノベーションして使うことを快諾した。

 伊東さんは、「元魚屋さんに何ができるんだろうと、町の話題になってほしい」との思いから、まちづくりなどを学ぶ学生に工事を依頼。青木さんが工面した簡易的な寝床に寝泊まりするなどして学生らが作業を進め、1年かけて「駄菓子屋さんのウオキヨ」が完成した。

 ウオキヨには町民が並んで腰かけられるベンチを備え、駄菓子約50種類が並ぶ。町内在住の中嶋梨祐捺店長(21)が、不定期で店を開く予定だ。開店して2日目の25日にも、多くの子どもたちや近隣住民が足を運んでいた。青木さんは思い出の詰まったウオキヨを眺め、思いをはせる。「店にまた明かりがついて、子どものにぎやかな声が聞こえてくる。これほどうれしいことはない」。ここから、ウオキヨの新しい歴史が始まっていく。

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