昔ながらの銭湯、59年の歴史に幕…福井県の「いづみ湯」 12月30日まで「最後までいつも通り頑張る」

「いづみ湯」ののれんを手にする佐藤進さん(左)と父の充美さん=福井県福井市足羽1丁目

 昔ながらの銭湯として、昭和から平成、令和と親しまれてきた福井県福井市足羽1丁目の公衆浴場「いづみ湯」が12月末で、59年の歴史に幕を閉じる。まきで沸かす風呂は「お湯がやわらかい」と好評で、地域の人たちの心身を温めてきた。閉業を惜しむ常連客や県内外の銭湯ファンが次々と訪れている。

 1963年創業。3代目店主の佐藤進さん(53)の祖父で旧和泉村(現大野市)出身の故助夫さんが、ダム建設に伴う立ち退きの補償を元手に銭湯を買い取り、リニューアルして始めた。進さんの父、充美さん(81)によると、昭和40年代は毎日大勢の人でにぎわった。その後は、家庭に風呂が普及し、スーパー銭湯の登場などもあって客足は徐々に減少。それでも新型コロナウイルス流行前までは、1日25~30人の利用があったという。

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 営業日は昼前からボイラーにまきをくべ、一般の風呂より少し熱めの43度になるように調整する。営業中は大量のまきを運びながら、温度や湯量などに気を配る。近年は充美さんだけで番台とボイラー調整を兼ねるのが難しくなり、普段は石川県で働いている進さんが、2020年から休みにボイラー調整を担うようになった。

 営業は週末だけになり、コロナ禍もあって客数は1日10~15人ほど。利益が出ない中、ボイラーや水回り、脱衣所の床といった設備が老朽化。改修には多額の費用がかかり、閉業を決めた。「やめんといてくれというお客さんも多いけど、時代の流れだから仕方ないね」と進さんはつぶやく。

 県公衆浴場業生活衛生同業組合によると、加盟銭湯は1960年代前半に約170軒あった。後継者不足や経営難で、現在は福井、大野、勝山、坂井、越前、敦賀各市と永平寺町の16軒だけになっている。

 いづみ湯は閉業決定後、地元の住民や常連客が足を運び、かつての活気を取り戻している。7回目の利用という羽水高の生徒は「肌当たりがよくて、相変わらずいいお湯でした」。長年通っている牧田勇さん(77)=福井市=は「客同士の会話が楽しくて最高の雰囲気だった」と惜しむ。

 全国千軒以上の銭湯を巡っている黒澤重康さん(46)=東京都=は「いづみ湯のためだけに福井に来た。相当年数たっているが、きれいに管理されている。熱い薬湯に入れてよかった」。野村将彦さん(41)=石川県=は「銭湯は450円で幸せを感じられる場所。最後の日まで通います」と語る。

 12月26~30日の午後3時~同6時半(27日は午後2時~同5時)に営業する。進さんは「特別なことはせず、最後までいつも通り頑張りたい」と話している。

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