一般NISAとつみたてNISA、いまから始めるならどっち?2024年からの新NISAをFPが紐解く

令和5年度の与党税制改正大綱で、NISAの拡充の方針が示されました。制度の恒久化、非課税期間の無期限化が評価されていますが、他にも年間の投資枠が大幅に拡大し、生涯投資枠とも呼ばれる非課税保有限度額の設定と枠の再利用が可能になった場合、これからの人生設計に大きな影響を与えそうです。

今回はこの新しいNISA制度について、詳しく見ていきましょう。


新NISAは痒い所に手が届くようになった!?

今回の改正案の目玉は、一般NISAとつみたてNISAが統合されるという点です。

一般NISAは非課税期間が5年、年間投資上限額は120万円、投資信託のみならず上場株式も買え、一括購入も可能です。一方のつみたてNISAは、非課税期間が20年で年間投資上限額は40万円、金融庁が認めた投資信託のみが投資対象でつみたて購入しか認められていません。なお、一般NISAとつみたてNISAはどちらか一方しか利用できません。

以上が現行のNISA制度の説明ですが、改めて読んでみても2つのNISAの違いを瞬時に理解することは困難です。またNISAは一般的な金融機関の口座とは異なり、年単位で管理されるため、年の途中で制度の切り替え変更が認められないなど特異なルールも多く、率直に言うと「イケてない」制度だったのです。

これが2024年からはNISAが一本化されるので、ずいぶんスッキリした制度に生まれ変わります。ここからは新しいNISAのことを「統合NISA」と呼ばせていただきます。

統合NISAでは非課税期間が無期限になることで、一般NISAの利用者を毎年悩ませていた「ロールオーバーするべきか否か問題」も一気に解決します。なにしろ統合NISAは一生非課税なのですから。

このようにシンプルにわかりやすくなったのが統合NISAですが、それでも少し勘違いしがちなところが、年間投資枠の考え方です。まず原則は「つみたてNISA」だとご理解ください。現行のつみたてNISAは年間投資枠が40万円と12カ月で割り切れない中途半端な額だったところが、年間360万円まで拡大されます。

この枠で購入できる金融商品は、従来のつみたてNISAと同様です。つまり金融庁が選定した、長期・積立・分散投資に適した低コストの投資信託です。つみたてNISAは特に若年層に支持され口座数も伸びていると言われていますが、逆に課題としてはどうしても投資期間が短い年配者はこの非課税制度を十分に生かし切れないという指摘がありました。

そのため今回の改正では、年間360万円の投資枠のうち、240万円までは成長投資枠と称し、幅広い投資商品に一括投資もできるようなりました。基本的には、現状の一般NISAを踏襲するので上場株への投資も可能です。成長投資枠とはどういう「成長」を指すのか?と問われることもあるようですが、意味合いとしてはキャッチアップのための枠というもののようです。

退職金を運用したい、相続で入ったまとまったお金を投資したいなどの要望に、非課税枠を提供し応えるものです。一部、一括投資ができる枠を設けることで、人生で起こりうるあらゆる投資の機会を十分に活用できるように、という思惑のようです。

したがって、基本は年間360万円の枠をつみたてNISAとして利用し、必要に応じてそのうちの年間240万円を成長投資枠として、つみたて以外の方法で投資を行ってもよい、と整理するとわかりやすいと思います。

生涯投資枠はどう使うべきか?

今回の改正では「生涯投資枠」とも呼ばれる非課税保有限度額が1,800万円(うち成長投資枠は1,200万円)と設定されました。例えば、月3万円ずつ積立を行うと50年間、月5万円ずつ積立てれば30年間で生涯投資枠1,800万円を使い切りますので、そこで積立が終了します。

もちろん積み立てる金額は、変更も可能です。年間360万円が上限ですが、それを超えない範囲で積み立てる金額を変更しながら、1,800万円を使い切るまで何年でも継続ができます。

1,800万円は大金ですから、この生涯投資枠を使いきるのもなかなか大変ですが、今回の改正ではさらにこの生涯投資枠を拡大することも可能になりました。それが「簿価残高方式で管理し枠の再利用が可能」という文言で表現されている部分です。少し難しいイメージがありますが、要は資産形成の途中で売却した金額は、生涯投資枠として復活し、その分累計投資額が増額されるという意味です。

例えば、積立額が500万円に達した時点で、お子さんの教育資金として300万円を引き出したとしましょう。すると生涯投資枠1,800万円のうち、引き出した300万円の枠が再度利用できることになるので、最終的に投資可能額は累計で2, 100万円まで拡大されます。

具体的には投資商品を売却した年末に、枠の再設定を行い翌年にお知らせされる「これから使える生涯投資枠」に反映されるそうです。とはいえ、年間投資枠360万円に、再設定された300万円が加算され翌年は年間660万円まで投資ができるという意味ではなく、あくまでも年間投資枠は360万円です。従って、いったん累計投資額が1,800万円に達した後、再利用枠300万円が追加され、累計の投資額が2,100万円までになるのだとご理解ください。

実際、お金を積み立てて、一部取り崩し、また積み立てて……ということを繰り返せば、この生涯投資枠は無限に拡大していくので、「ドデカイ非課税の財布」を私たちは手にするのです。

NISA口座は、1人1口座です。年単位ではありますが、金融機関の変更は可能です。すると、A銀行にNISA残高400万円、B証券会社にNISA残高500万円と複数の金融機関に生涯投資枠の投資残高が分散されるケースも想定されます。その中で、一部売却などが発生すると生涯投資枠の管理は煩雑になりそうですが、マイナポータルでNISA情報も確認できるようにする計画もあり、利便性も担保されるようです。

今までのNISAはどうなるのか?

一部では、今NISAを始めるのではなく、2024年を待つべきという声もあるようですが、非課税の枠を有効につかうのであれば、2023年だけであっても現行NISAを始めるべきです。なぜならば、2024年からの統合NISAと現行NISAは別ものだからです。

では、今始めるのであれば一般NISAとつみたてNISAはどちらなのかという問いであれば、つみたてNISA一択となります。なぜならば、一般NISAで上限いっぱいの120万円の投資をしたとしても、非課税期間は5年で終了し、かつ2024年以降の統合NISAに旧制度で投資した運用商品をロールオーバーすることができないからです。

そうであれば、つみたてNISAの非課税期間20年はそれでも十分長いので、ここでしっかり非課税投資をした方がメリットがあると考えます。

同様に以前に行っていた一般NISAも、5年の非課税期間が順に終わりますから、つど課税口座に移管するか、非課税期間内に売却するのかを選びます。つみたてNISAも20年間の非課税期間が終了までに売却するか、課税口座へ移管するのかの2択です。

これまでNISAを行ってきた方の中には、2024年から始まる統合NISAのために、再度口座開設をしなくちゃいけないのかと思っている方もいるかもしれません。NISA口座開設の手続きにはマイナンバーカードの提出や書類の記入などいろいろ面倒なこともあって、気が進まないと思っている方もいらっしゃるでしょう。

しかし、今すでにNISA口座をお持ちの方であれば、手続き不要で自動的に統合NISA口座の開設が可能となるようです。「そうじゃなくちゃ!」とは思いますが、このあたりずいぶん利便性が高まったとうれしく思います。

ジュニアNISAも改善

2023年をもって新規の投資ができなくなるジュニアNISAにも改善が見られます。本来高校3年生の12月末まで引き出しができず、仮に途中引き出しをすると課税されてしまう点が不評だったジュニアNISAですが、皮肉なことに廃止に伴い2024年以降は払い出し制限が解除されることで、にわかに人気となりました。

例えば0歳の子ども名義でジュニアNISAを始め、中学に進学する際の資金についても非課税で引き出しできるようになったのです。この利便性の拡大が多くの方に支持され、駆け込み投資も増えたと言われています。

ただジュニアNISAの問題点は引き出し制限ではなく、むしろ非課税期間を継続するための手続きにあります。そもそもジュニアNISAの非課税期間は5年間なので、それを超えて資金の引き出しまで引き続き非課税運用を希望する場合、「継続管理勘定」に移管(ロールオーバー)をする必要があります。

しかしジュニアNISAを終了するまで「当然」非課税で運用されるのだろうと思っている方も多く、この継続管理勘定に移管する手続きを知らずに、同じジュニアNISAの勘定にある課税口座に払い出しされたことに不満を持つ方もいました。わざわざ継続管理勘定への移管のために書類を提出しなければいけないという落とし穴は、制度の複雑さの典型例と言えるでしょう。

この問題も、今回の改正案では移管手続きが省略されることになり解消される見通しです。これにより、ジュニアNISAは資金を引き出すまでずっと非課税運用が自動で継続されることになります。

更なる変化も期待

画期的と評価される今回の改正案ですが、実は見送りとなった項目もいくつかあります。例えばジュニアNISAに代わる仕組みとして、統合NISAの口座開設可能年齢を0歳とする案です。資産形成において最も重要なことは時間ですから、子どもの頃から資産形成が可能となれば、大きなメリットに繋がります。またジュニアNISA同様、祖父母からの資金提供も期待されるので、高齢者が持つ「眠れる資金」の活性化が望まれていました。しかし残念ながら、統合NISA口座開設可能年齢は18歳開始にとどまりました。

生涯投資枠の再利用が可能になるのは大きな進歩ですが、これはiDeCoでは当たり前の「スイッチング」と同義ではありません。相変わらずNISAは年間投資枠の中で、投資商品の売買を行うことはできません。特に長期の資産運用においては、投資枠を消費することなくスイッチングを行い、リバランスやアロケーションの変更を行う必要性は高いと考えるため、ここは今後の改正に期待したいところです。

年間の投資枠が合計360万円となり、もはや「少額」投資非課税制度と言えないほど成熟した仕組みに変わってきているのでは、とも感じます。しかし、制度は国民が使ってこそ価値が生まれるわけで、資産形成の裾野が広がらなければ意味がありません。とはいえ、「税金が得するから」と飛びつく必要はなく、人生設計を考える上で適切な資金を適切に投資に振り向けることが不可欠です。

これには金融庁も非常に注意深くなっており、今回の資産所得倍増プランには、金融経済教育の充実と中立的で信頼できるアドバイザーの必要性も明示されています。筆者もこの制度が正しく普及・正しく成長し、皆さんの人生がより豊かになることを願っています。

※編注:本稿は2022年12月25日現在の情報を元に執筆しています。今後、国会での審議が進む中で変更となる可能性があります。

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