『長崎市桜町庁舎、ありがとう』64年の歴史に幕 引っ越し作業本格化

閉庁式で市旗を折り畳む田上市長(左)と深堀議長=長崎市役所

 64年にわたり市民に利用されてきた長崎市役所本館(桜町)などの庁舎が28日、仕事納めとともに閉庁した。行政機能は来年1月4日に開く新庁舎(魚の町)へ順次移る。
 市役所は1889年の市制施行から130年以上桜町にあり、現在の本館は4代目の庁舎として1959年に完成。鉄筋コンクリート地上5階、地下2階建て。本館や別館など9カ所に分散していた部署は、来月中に新庁舎に集約される。
 本館玄関前であった閉庁式で、市職員時代を含め40年以上を過ごした田上富久市長は「この庁舎でいろいろな議論をした。まちづくりの拠点として機能してくれて感謝の思いでいっぱい」。新庁舎への移転を「新しい時代に合わせた新しい仕事を始める『進化』に」と意気込んだ。
 桜町自治会の山﨑秀人会長(73)は「魚の町でも桜町庁舎を忘れることなく、市民のために前進してほしい。桜町庁舎よ、さようなら、そしてありがとう」と述べた。本館屋上で掲揚されてきた市旗を田上市長と深堀義昭市議会議長が折り畳み、式の最後に、出席した約60人が庁舎に向かって拍手を送り別れを惜しんだ。

◎引っ越し作業本格化 市民「壊れるのは悲しい」

新庁舎に引っ越すため、荷物を仕分ける職員=長崎市役所

 「寂しい」「ありがとう」。長崎市役所本館(桜町)などの庁舎が長い歴史に幕を下ろした28日、職員や市民らがそれぞれ思い出を振り返り、感謝と惜別を口にした。
 昼時、本館地下の食堂「ル・シェフ」には職員らの列ができた。1983年にオープン。運営会社「さかもと」の坂本洋司会長(76)は、一緒に切り盛りしてきた妻ひろ子さん(2007年に59歳で死去)の写真をカウンターに置き、共に最後の一日を過ごした。「約5年ぶりに厨房に立って、家内との思い出を振り返り感激だった。ここは自分の原点と言える場所」と万感の思いで語った。
 午後4時。通常業務と同時並行で、館内の引っ越し作業が慌ただしく進む。資産税課の浦川あおいさん(47)は「市長銃撃事件(07年4月)の時は、部長室に集まってテレビの中継を見ていた」と振り返る。「入庁したばかりの頃は本館と別館をつなぐ地下通路が迷路みたいだと思った。残業の前にはよく、地下の食堂に『夕定』を食べに行った」と思いをはせた。
 市民も別れを惜しんだ。音無町の会社員、堀川美智子さん(42)は館内の案内図を写真に収めた。「二度と見られなくなるから何がどこにあったか撮影した。歴史ある建物が壊れるのは悲しい」。日が落ち、閉庁時間が迫る。「県庁と市役所があったここは長崎くんちのメインストリートだった」。50代男性はしみじみと話し、庁舎を見上げた。


© 株式会社長崎新聞社