アール・デコの駅、東武浅草駅の歴史と今 隅田川を渡る列車のビューポイントは【コラム】

東武浅草駅(写真:Ryuji / PIXTA)

2022年10月から2023年2月まで継続実施される、「東武グループ×台東区×クラブツーリズム特別企画・1日でTOBUの魅力に迫る!東武浅草駅裏側探検ツアー」への同行取材の2回目です。ご紹介するのは東武鉄道のターミナル・浅草駅(東京都台東区)。年末年始に日光や鬼怒川温泉への旅行を計画中の皆さん、少し早めに浅草駅に行き、駅を見学してから列車に乗車してはいかがでしょうか。

1931年の「浅草雷門駅」としての開業時、浅草は東京一の繁華街でした。関東で初めて建物内から列車が発車する、本格的なターミナルビルでした。都心の新名所として歴史を刻み始めた浅草駅は、現在も最初期の風格をとどめます。本レポートは、最初の浅草駅だったお隣りの「とうきょうスカイツリー駅」もあわせ、2つの駅の魅力を掘り下げます。

10年前は業平橋駅だった「とうきょうスカイツリー駅」

ツアーは東武博物館を貸切見学の後、東向島駅から電車でスカイツリーの足元・とうきょうスカイツリー駅に移動しました。スカイツリー駅の名称変更は2012年3月。それまで「業平橋駅」を名乗っていたことは、多くの方の記憶に残っているでしょう。

業平橋駅の歴史は、起伏に富みます。最初の駅名は「吾妻橋駅」。1902年に開業しました。ちなみに、都営地下鉄浅草線には今も本所吾妻橋駅がありますね。

前編で東武が1899年に北千住―久喜間で開業したことはご紹介しましたが、吾妻橋駅は都心に向けて線路を延ばした東武がたどり着いた、最初のターミナル駅でした。

しかし、わずかの間で吾妻橋駅はいったん廃止されます。1904年に亀戸線(曳舟―亀戸間)が開業すると、東武の列車は亀戸から総武鉄道(現在のJR総武線の前身の私鉄です)に直通運転。今の亀戸駅は東武は地上、JRは高架ですが、両社の駅は隣り合っていて、いかにも相互直通運転できそうな構造です。

浅草になかった「(初代)浅草駅」

業平橋駅2景。上は貨車で埋め尽くされた駅構内、下は戦後に運転されていた海水浴列車の到着シーンです。東武沿線からの海水浴客は業平橋駅で下車し、近隣の押上駅から京成に乗車。千葉の海水浴場に向かいました(画像:東武博物館)

吾妻橋駅は1908年に復活しましたが、その際は貨物駅でした。1910年に旅客営業も始め、この時(初代)浅草駅に改称されました。

浅草に近いのは事実ですが、浅草寺や雷門は隅田川の向こう側。今だったら、「浅草にない浅草駅」の情報がSNSで飛び交っているかもしれませんね(笑)。

ところで、レポート前編で東武がSLで営業運転を始めたことをご紹介しました。SL時代の浅草駅には何があった? 機関庫と転車台です。戦前の東武は貨物営業も盛んで、駅構内には広大なヤードがありました。

ヤード跡に今、東京スカイツリーが建ち、スカイツリータウンに大勢の買い物・観光客が訪れています。記憶をたどればスカイツリーは、さいたま新都心や新宿駅南口に建設するプランもありました。もしも、業平橋・押上でなければ、東武スカイツリーの愛称名もなかったはず。

偶然の要素も大きいわけですが、業平橋に貨物駅を整備した東武の先人たち、実は最も先見の明があったのかもしれません。

松屋浅草屋上のビューポイント

浅草駅今昔。周囲の建物は変わっていますが、駅ビル自体の風格は完全に開業時のままです。現在の浅草駅(上)は筆者撮影、開業時の写真(下)は浅草松屋提供

ツアー参加者が浅草に到着して、案内されたのは浅草駅……ではなく、駅ビル8階の松屋浅草屋上です。愛称名は「駅見世小路 浅草ハレテラス」。私が知らなかっただけかもしれませんが、屋上からは浅草駅を発車する(浅草駅に到着する)東武の列車と、スカイツリーが1枚の写真に収められます。

屋上は誰でも上がれるので東武ファンの皆さん、一度上がってみてはいかがでしょうか。ただし列車は超遠望。豆粒のようにしか見えませんが、それでも鉄道写真コンテストに入賞するような、「列車のある風景」が誰にでも撮影できます。

松屋浅草屋上からの東京スカイツリーと隅田川橋りょうの遠望。ご覧のように列車はわずかに見えるだけです(筆者撮影)

エンパイアステートビルと同じ建築様式

ここで浅草駅の簡単なプロフィール。開業は最初に書いたように1931年ですが、その4年前の1927年に東京地下鉄道が開業していました。地下鉄道は今の東京メトロ銀座線。浅草では東武よりメトロが先輩です。

駅(駅ビル)の建築様式はアール・デコ。1920~1930年代にアメリカやヨーロッパで流行した美術様式で、建築物で一番有名なのは、ニューヨークのエンパイアステートビル。浅草駅も同様の風格が感じられます。

東武は、2012年のスカイツリータウン開業にあわせて駅をリニューアル。この時に屋上の大時計が復活しました。

松屋浅草屋上を降りて、〝駅の表裏〟を探訪したのですが、世界遺産・日光に向かう鉄道の始発駅で国賓の利用も多い浅草駅、セキュリティー上の理由から詳しく紹介できない点をお詫びします。

ツアー参加者は、駅員の仕事体験としてハンドマイクを握り、降車客へのアナウンスなどに挑戦しました。

地域観光資源としての鉄道に期待

さて、今回のツアーで影の主役と呼べるのが台東区観光課です。台東区には浅草寺、上野公園、東京国立博物館、アメ横と有名スポットがあって集客に苦労しないのですが、それでも広く深く地域を知ってほしいというのが台東区の考え方。

そこで、新しい観光資源として目を付けたのが鉄道。台東区とクラツーは2021年11月に「観光分野における連携協定」を締結し、2022年7月の東京メトロ車両基地と岩倉高校見学ツアーに続き、今回の浅草駅探検ツアーを企画しました。

「浅草のことをもっと知りたくて」

駅放送体験に挑戦するツアー参加者。東武社員の話によると、駅や車内放送が鉄道ものまねでおなじみの鼻声になるのは、「昔の放送設備は性能が良くなかったので、鼻声のように聞こえたから」とのことでした(筆者撮影)

最後に、後編でもツアー参加者の方にお話をうかがいました。松屋屋上でのミニインタビューに答えてくれたのは女性2人組。〝女子鉄〟と書きたくなってしまうところですが、参加のきっかけは「浅草のことをもっと知りたくて」。たまたまかもしれませんが、東武沿線の地元の方という点が、前編でインタビューした親子連れの方にも共通します。

ブームを呼ぶ旅行会社が企画する鉄道ツアー、鉄道ファンだけでなく、地域をもっと深く知りたいと思う、探求心を持った方に受け入れられているのが人気の秘密なのかもしれません。

ご紹介した東武浅草駅裏側探検ツアー、2022年内はここまでですが、年明け2023年1~2月にも継続実施されます。興味のある方は、ぜひクラツーのホームページをチェックしてみてください。

記事:上里夏生

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