かあちゃん「ごちそうさま」 池島唯一の食堂が3月末閉店 店の壁に感謝の言葉

3月末で閉店する「かあちゃんの店」で店頭に立つ脇山さん=長崎市池島町

 長崎市の離島、池島にある唯一の食堂「かあちゃんの店」が2023年3月いっぱいで閉店する。店がある市設池島総合食料品小売センターが老朽化で解体されるためだ。約20年愛されてきた名物店だけに悲しむ声も多い。「かあちゃん」と親しまれている店主の脇山鈴子さん(83)は「たくさん思い出ができた。もう少し続けたかったが、今は仕方ないと思っている」と話す。

 01年11月に池島炭鉱が閉山し、離島者や飲食店の廃業が相次ぐ中、かあちゃんの店は04年春、センターの一角に開業した。佐世保市出身の脇山さんは26歳の時、夫の弘さんらと島に移住。炭鉱マンの寮で20年以上、朝昼晩の食事を作った経験が店の味に生きている。店の名付け親は長女の利恵さん(60)。「かあちゃん、かあちゃん」。そう周囲に呼ばれ、慕われる姿を見ていたからだ。
 トルコライスやカツ丼など数あるメニューの中で、昔から人気なのが「ちゃんぽん」。注文が入ると、脇山さんは店奥の厨房(ちゅうぼう)で肉や野菜を手際良く鍋で炒める。白濁した豚骨スープに具材がたっぷり入った一杯を求め、県外から来島する客もいるほどだ。

「かあちゃんの店」奥の壁一面にびっしり書き込まれたイラストやメッセージ

 店の奥には書き込み自由の壁があり、訪れた客からのイラストやメッセージでびっしりと埋まっている。「東京から来ました」「うまかったよ、かあちゃん」「ごちそうさま、絶対また来ます!」-。眺めるたびにお客の顔や会話が思い返されるようで、脇山さんにとってもたくさんの思い出が詰まっている。
 脇山さんは、手作り弁当の配達も手がけている。たびたび注文し、店にも足を運ぶ長崎市立池島小中学校の庁務員、森洋子さん(61)は「みんなの憩いの場。なくなるのはさびしい。4月以降、昼食もどうしよう」と悲しげに話す。
 ピーク時の1970年には7700人を超えた島の人口は、ヤマの灯が消えて以降減り続け、1日現在104人。産業は乏しく、施設の劣化も目立つ。民間の移動販売車が来島しているが、観光客にも人気だった唯一の食堂がなくなれば、活気はさらに失われる。
 「ここがなくなっても、いつか誰かが食堂ばするさ」と笑い飛ばす脇山さん。閉店まであと約3カ月。「おなかをすかせた人がひもじい思いをしないように」と開業当時からの思いそのままに、最後まで店頭に立ち続ける。かあちゃんの店(電0959.26.1123)。不定休。


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