“散髪難民”頭も心もさっぱり 「理美容サービス利用券」活用呼びかけ 長崎の出張理容師・小畑さん

森さんの髪を切る小畑さん=長崎市浜平2丁目

 坂の街長崎。高齢や病気で身体が不自由なため店に散髪へ行きたくても行けない“散髪難民”の人たちのために、自宅や入所施設に出張し、髪を切る理美容師がいる。長崎市の理容師、小畑米彦さん(79)もその1人だ。

 12月初旬の昼下がり。小畑さんは、細く長い階段を上がり、同市浜平2丁目の森道也さん(92)宅を訪れた。公務員だった森さんは、心臓を悪くするなどして歩けない。小畑さんは、はさみやバリカン、カットクロスなどを部屋に並べる。ビニールシートの上に置いた椅子へ森さんに腰かけてもらい、散髪を始めた。
 「この1カ月どうでした」「足が思うように動かないから、一日中テレビを見ていたよ」。会話をしながら、はさみを動かし、ひげをそり、約30分かけて仕上げる。「気持ちがすっとした。足の悪い者には助かる」と鏡に映る出来栄えに森さんは笑顔。小畑さんは「髪を切るのは衛生面だけでなく心にもいい」と話す。
 森さん宅から、稲佐山や浦上地区の商業施設が見える。「この見晴らしを知ると離れられない」。森さんと妻の幸子さん(84)の自慢の景色だ。坂の上は散髪だけではなく、通院や買い物も不自由だが、ここに住み続けるつもりだ。
■ ■ ■
 小畑さんは1980年、銅座町に理容店を開いた。高齢化社会を見越し、介護と散髪を組み合わせたビジネスを模索していた時、出張美容師を雑誌で知った。これをヒントに約20年前、市内に「訪問センターヨネ」を開業し、老人ホームなどへの出張を始めた。
 同店には11人の理容師、美容師が在籍し、施設や高齢者らの自宅を訪問する。新型コロナ感染拡大の影響で訪問できない時期もあったが、小畑さん自身も現在、月に約10回施設へ出向き、高齢者宅でも10人を超す人の髪を切っている。県美容業生活衛生同業組合などによると、長崎市内で訪問をしている理美容業者は約90業者という。
 森さんはケアサービスとタクシーを使い新大工町まで散髪に通っていたが、出張散髪を知った2021年から小畑さんに頼んでいる。この時の理美容師の交通費は「長崎市訪問理美容サービス利用券」を活用すればまかなえる。しかし、市地域福祉課によると、昨年の発行枚数は30枚と認知度は高くない。利用者にとっても負担軽減になり「高齢や車を持たない理美容師を頼みやすくなるメリットもある」と、小畑さんは活用を呼びかける。利用券の問い合わせは市地域福祉課(電095.829.1429)。

© 株式会社長崎新聞社