不屈のエース 豪雨被災越え得点王 FW今井、諦めない心で栄冠

被災を乗り越え、チームをけん引し、得点王にも輝いた学芸館のFW今井拓人(右)=国立競技場

 9日に閉幕したサッカーの第101回全国高校選手権で、岡山勢初の栄冠をつかんだ学芸館にプロに内定しているスター選手はいない。全員が「フォア・ザ・チーム」を貫き“下克上”を成し遂げた。強豪校のエースたちと並んで大会の得点王(5人)に名を連ねたFW今井拓人(3年)はその象徴だ。特別な思いを胸に国立競技場のピッチを駆けた。

 東山(京都)を3―1と突き放し、歓喜が刻一刻と迫る。終了のホイッスルを聞いたのは相手ゴール前。最後まで前線で体を張り続けた背番号9はその瞬間、膝から崩れ地面に突っ伏した。「感動と、力を使い果たしたというのもあった。決勝も自分らしく、泥くさくできた」と誇らしげだ。

 7日の準決勝は同点ゴールを決め、今大会3得点目を挙げた。「へこたれなければ、どうにかなる」。諦めない心は14歳の夏に刻んだ。2018年7月の西日本豪雨。倉敷市真備町の自宅が濁流にのまれた。当時所属していたクラブチームのユニホーム、愛用のボールや家族のアルバム…。たくさんの宝物を失った。

 周囲の支えでサッカーを続けられたという。仲間が費用を出し合いユニホームを新調してくれた。主将のDF井上斗嵩(つかさ)とMF岡本温叶(はると)は当時からのチームメート。自宅が近い岡本とは高校入学後、新型コロナウイルス禍で部活動が制限された時に2人で練習を重ねてきた。芝生から顔を上げると、自然と目が合い真っ先に抱き合った。

 表彰式後、金メダルを首に掛けあいさつに向かったスタンドには、大変な時期も変わらず応援し続けてくれた両親や兄の姿がこの日もあった。4年後のプロ入りを目指し春には関東の大学に進む。「流されたアルバムの分を埋める思い出を残したかった」。不屈のストライカーが感謝を最高の形にした。

© 株式会社山陽新聞社