映画『モリコーネ 映画が恋した音楽家』- モリコーネ本人と彼に関わってきた人たちにインタビューしたドキュメンタリー映画は壮大な歴史物語のようで、繊細な感情表現の人間ドラマのようだ

壮大な歴史物語のようで、繊細な感情表現の人間ドラマのようなマエストロのドキュメンタリー

『モリコーネ 映画が恋した音楽家』。157分という長尺で、エンニオ・モリコーネ本人と彼に関わってきた人たちにインタビューしているだけのこのドキュメンタリー映画が、壮大な歴史物語のようで、また繊細な感情表現の人間ドラマのようで、飽きることなどなく最後まで魅せてくれる。

2020年に91歳で亡くなった映画音楽のマエストロ、エンニオ・モリコーネ。1961年以来、映画を始めテレビ作品など、手掛けた音楽は500以上。 まずは幼少期を振り返る。トランペット奏者の父親から同じ道へと導かれるが、しかしそれは生活のため。時を経ずしてアカデミックな音楽家、ゴッフレード・ペトラッシとの出会いがあり、また映画音楽とも出会う。モリコーネの生涯の師となるペトラッシだが、彼は商業音楽を否定し、映画音楽を理解しない。モリコーネの葛藤。葛藤を超えて、いや、葛藤を抱えながら、だからこそ映画音楽に打ち込んでいくモリコーネ。登場する作品は、ポンチョを羽織って銃を構えるクリント・イーストウッドの姿が浮かぶ、『夕陽のガンマン』、『荒野の用心棒』。不安を搔き立てられる旋律が印象的なジャン・ギャバンとアラン・ドロン主演のフィルムノワール『シシリアン』。『ソドムの市』、『アンタッチャブル』、そして、本作『モリコーネ 映画が恋した音楽家』の監督であるジュゼッペ・トルナトーレの『ニュー・シネマ・パラダイス』。まだまだ、もっともっと。

モリコーネ本人と関わってきた人たちが、モリコーネが作る映画音楽について語る。その話と共に、モリコーネの手掛けた音楽と映画の画面が流れる。それだけだ。それだけなのに、音楽の手法から映画音楽の歴史までが語られ、そして語る人たちのイキイキした表情といったら! インタビューを受ける関係者はモリコーネを「真面目」「口数は少ない」と言う。だがここに登場するモリコーネは自身の体験を、映画音楽についてを、途切れることなく夢中で話している。モリコーネだけじゃない。インタビューを受けた全員が夢中で話すのだ。2人揃っているタヴィアーニ兄弟など子どものような仕草で微笑ましい。

ベルナルド・ベルトリッチ、クリント・イーストウッド、クエンティン・タランティーノ。ミュージシャンではブルース・スプリングスティーン、ジョーン・バエズ、モリコーネと同じイタリア出身のシンガー、ジャンニ・モランディ、元ザ・クラッシュのポール・シムノンも出てくる。

40年、50年も前の映画について、映画音楽について、まるで昨日観た映画のように話している。映画を、音楽を、映画音楽を愛する気持ちがそうさせるのだろう。 ジュゼッペ・トルナトーレ監督はモリコーネと組んだ自身の作品より、他の多くの作品を取り上げているが、ここぞ! ってとこに『ニュー・シネマ・パラダイス』が出てくる。もうコレはモリコーネへの愛情表現かな。

子どもの頃、医者になりたかったモリコーネは「音楽が運命になると思っていなかった」と言い、後に映画音楽というジャンルを創成し、「私という人間は、今までに学んだすべての音楽で出来ている」と言うまでに至った。 インタビューには既に亡くなった人もいるし、モリコーネも旅立っている。だけど、音楽はあり続ける、続いていく。そう信じられるドキュメンタリー映画だ。(Text:遠藤妙子)

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