冬の味覚

 おそらく、どなたでも身近な人に聞いたり聞かれたりしたことのある質問だろう。「夏と冬、どっちが好き?」。ありきたりな問いだが、個人的にはいつも「冬」と答える▲好きな食べ物が多いから-と、理由はそれに尽きる。ミカン、白菜、カニ、カキ、大根…。それに、おでんや鍋、すき焼きと、寄り集まった旬の味覚を囲むのも冬ならではだろう▲私的な楽しみだが、諫早市小長井町や西彼時津町のカキ小屋で「あちっあちっ」と焼きたてを頬張るのを冬の恒例行事にしている。ひと月前の紙面に「小長井牡蠣(かき)」は過去5年間で最も出来がいい、とあった▲同じ時期に、佐世保市の九十九島で養殖するカキが大量に死滅したという記事も目にした。「九十九島かき食うカキ祭り」は仕入れの見通しが立たず、秋も冬も中止されている▲昨年夏の海水温が高かった。台風にやられた。赤潮で餌が不足した。原因はいくつか考えられるという。大切に育てた人たちの歯がみする音が聞こえる▲昨年はサンマも記録的な不漁で、日本近海の海水温が上がったのが一因とされる。サンマも九十九島カキも、旬を味わう楽しみを「気候変動」の4文字がどうやら遠ざけている。〈傾(かし)ぐ舟牡蠣一連をひきあぐる〉中西夕紀。水揚げの最盛期に、船が傾くような風景を夢想する。(徹)


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