鷹島は調査、発掘から引き揚げ、保存処理まで学べる“学校”  国学院大教授・池田榮史氏

国学院大教授 池田榮史氏

 鷹島海底遺跡の発掘調査に携わる国学院大の池田榮史教授(67)に、水中考古学で鷹島の果たす役割について聞いた。

 -昨年10月の元寇船木製いかり引き揚げの意義と成果は
 引き揚げたいかりは、2011年に鷹島町神崎免沖で元軍沈没船(鷹島1号沈没船)が発見された際の周辺調査で13年に見つかった。石材がいかり本体の木材を貫く「一石型」。鷹島では初めて発見された。
 トレハロース(糖の一種)を使った木材部分の保存処理では、脱塩処理後、どのタイミングで保存処置に移行すればいいかを実験。将来の元軍沈没船引き揚げにつながる重要なデータを収集する。
 いかりは貝の食害やバクテリアによる腐敗を防ぐため銅網で覆い、酸素を通さないシートと砂を交互に重ねて埋め戻し、海底で現場保存してきた。この保存方法が有効なのかを検証する意味もある。

 -引き揚げで感じたことは
 市は引き揚げ費用をクラウドファンディングで募集。全国から目標の1千万円を超える寄付をいただいた。寄付者から募った引き揚げ作業の見学ツアーにも、自己負担なのに34人が参加。「歴史的な瞬間に立ち会えて感動した」などの声をかけてもらった。元寇の歴史とともに、水中考古学への関心や注目度の高さ、熱心さが伝わった。

 -調査はどう進むのか
 2隻の沈没船のどちらかの引き揚げを望む声があるが、早計だ。海底の音波探査で数カ所に沈没船と同様な反応のパターンがあった。調査範囲を広げ新たに沈没船を発見することで、将来の引き揚げに向けた選択肢を増やしたい。調査が十分できなかった水深が20~30メートル以上の海底も丁寧に調べる。

 -鷹島に期待することは
 40年以上にわたる鷹島海底遺跡のデータの蓄積がある。学生や研究者には水中考古学の調査、発掘から引き揚げ、保存処理まで学べる“学校”。鷹島の海は絶好のフィールドワークの場所だ。だが、施設や研究機関の設立、運営には国や県の関与が不可欠。鷹島が水中考古学の「ナショナルトレーニングセンター」として人材育成や、情報発信の拠点になる可能性はある。

 【略歴】いけだ・よしふみ 1955年、熊本県天草市生まれ。国学院大大学院博士課程(考古学系)修了。琉球大教授だった92年から鷹島海底遺跡の調査に参画。2011年に元軍沈没船(鷹島1号沈没船)、15年に2隻目の沈没船(鷹島2号沈没船)を発見した。21年から国学院大研究開発推進機構教授。22年から松浦市立水中考古学研究センター特別顧問。


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