新型コロナ5類引き下げ、栃木県民の反応は? 危惧、歓迎...医療現場でも賛否交錯

マスク姿で行き交うJR宇都宮駅の利用者。今後こうした風景が変わる可能性がある=20日午後3時45分、宇都宮市宮みらい

 反対、賛成、疑念、許容-。岸田文雄(きしだふみお)首相が新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けの引き下げを表明した20日、コロナ対策の緩和に対する県民の反応は分かれた。死者数や感染者数が高止まりする現状の一方、コロナとの闘いや負担は長期化しており、県民は複雑な感情を抱える。命を守る最前線で活動する医療・介護従事者も賛否が割れており、県民の命と健康の確保と日常生活の安定の両立に向けた模索が続く。

 宇都宮市中心部で無症状者を対象としたPCR検査センターを利用していた宇都宮市、会社員男性(50)は「死者が毎日出ている中で引き下げるのはまだ早い」と言い切る。

 自分に濃厚接触の疑いがあり、感染を拡大させる不安から検査を受けた。「規制が緩和されたら今よりコロナが広まり死者も増えるのでは」と危惧する。

 那須塩原市内の商業施設に夫と訪れていたさくら市草川、主婦大橋紀子(おおはしのりこ)さん(66)も「感染者や死亡者が増えている中、時期尚早では」と考えている。「医療費やワクチン接種費が自己負担になることも不安だし、(行政の指示による)待機がなくなることのしっかりとした理由があるのか」と首をひねった。

 一方、重症化リスクが低いとされる若者からは前向きな受け止めの声が聞かれた。宇都宮大共同教育学部3年和田悠莉(わだゆうり)さん(21)は「行動範囲が広がり、できることが増える」と歓迎する。

 コロナ禍が始まった2020年に入学し、多くの我慢をしてきた。大学では今も、大人数での会食や対面の飲み会の自粛が続く。所属するボランティアサークルで活動のたび多くの消毒液を用意するのも負担だ。

 「いつかは制限を緩和しないといけない。少しの熱やせきで騒ぎになる現状は息苦しい」と感じている。

 5類への引き下げにより、コロナ対策の象徴でもあるマスク着用のルールも緩和される見通しだ。

 足利市永楽町、会社役員酒井清治(さかいせいじ)さん(73)は「いい意味でウィズコロナの流れなのだろう」と方向性には理解を示す。ただ、「国がいくら推奨しても私は着用しないと不安」と話す。

 妻と那須町の道の駅を訪れた埼玉県鶴ケ島市富士見1丁目、自営業田中修三(たなかしゅうぞう)さん(71)も「感染対策は個人がどうすべきかを決めればいい。私はまだ怖いので着けたい」と語った。

 医療や介護の現場でも、賛否が交錯している。

 宇都宮市のインターパーク倉持呼吸器内科の倉持仁(くらもちじん)院長(50)は「医療現場はさらにひどい状況になる恐れがある」と指摘する。

 5類となれば緊急事態宣言などでの行動制限ができない。「コロナに感染したけど軽症だから旅行しよう、居酒屋へ行っちゃおうという人が出かねない」と感染拡大を危惧する。今後、感染力や致死率のより高いウイルスの変異も懸念されるだけに「国は本質を全く見ていない」と批判した。

 日光市の社会福祉法人大恵会(たいけいかい)の岩原真(いわはらまこと)理事(64)は引き下げに理解を示す。一方、「一律に対応が緩和されるのは非常に心配。状況に応じてマスク着用や面会制限もあり得ることを国民に伝えてほしい」と政府に対して求めた。

 同法人が運営する同市今市の特別養護老人ホームひかりの里の那須野孝(なすのたかし)施設長(48)は重症化する利用者の増加などを懸念する。「感染が広がりデイサービスを休止した場合の経営悪化や、感染対策への補助金など行政の支援策の見直しなども不安だ」と明かした。

 「コロナも一般の感染症として扱う機運が高まるのではないか」。コロナ患者の入院を受け入れてきた同市民病院の管理者杉田義博(すぎたよしひろ)医師(57)は前向きに捉える。

 コロナ患者の入院受け入れ医療機関や発熱外来の数は限られ、感染者が増えれば受け入れ施設の負担は増す。「診察できる医療機関を増やす必要がある。5類への変更が段階的に診療体制づくりを進めるきっかけになればいい」と望む。

 ワクチン接種については「5類でも接種率を上げる努力は必要だ」と訴えた。

施設の入り口で面会制限やマスク着用などを周知している特別養護老人ホーム=20日午後、日光市今市

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