「これだから女は」共働き率1位の福井県、実は男性中心社会 新幹線開業後は女性活躍がポイントに

【グラフィックレコード】女性活躍っていうけれど
足羽川河川敷でクラフトビールを楽しむイベントをPRする海渡由紀子さん(中央)ら=2022年4月、福井県福井市中央3丁目

 2019年に会社を退職してから、外出がおっくうになった。福井県あわら市の海渡由紀子さん(33)は「なんとなく、近所の目が気になった」。みんなが仕事をしている日中に家にいるときも、落ち着かなかった。

 実家の農業を手伝おうとすると、「女にはできない。はよ、婿もらえ」「公務員と結婚を」と家族や周囲から勧められた。見合い相手候補のプロフィルの備考欄には、高い確率で「家事育児手伝います」とあった。「手伝う? はあ?」

 国が打ち出す「女性活躍社会」という言葉に違和感を抱く女性は少なくない。

 結婚を考え始めた同県福井市の道子さん(29)=仮名=は、多忙に加え、会社以外の人とのつながりがない人生に疑問を持ち、退職した。上司からは「これだから女は」と言われたが、「男しかサバイブ(生き残る)できない社会や会社のシステムのせいだよ!」と、心の中で毒づいてやった。

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 20年の就業状態基本集計によると、福井県の共働き率は61.2%で全国1位。一方、女性管理職の割合は13.5%(20年国勢調査)で全国平均を下回っている。人材派遣などのアイル(本社福井市)の市橋加奈子会長は「女性はあまり忖度をせず、社内派閥も気にせず、自分が正しいと思うことを言う人が多い。行動力もある。会社にとっては大きな戦力。女性管理職が増えれば女性はもっと働きやすくなる」と指摘する。

 地域の経済団体のメンバーも男性が多いのが現状だ。ある50代女性経営者は「決まった人で物事を決めて、その中で仕事を回す。その仕事に適した人は他にもいるのに…」と福井の男性中心社会を嘆く。「仲間には優しいが、それ以外の人には冷たい。若い経営者が出てきても、仕事を回して育てるという感覚はない」

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 退職後、半年ほど無職を経験した海渡さんはMC、動画クリエイターなどフリーの立場で活動を再開。22年4月にはクラフトビールを片手に、福井市の足羽川河川敷でひとときを楽しむイベントを開催した。

 同年8月には仲間たちと、あわら市のまちづくりを手掛ける一般社団法人「MYNKS(ミンクス)」を立ち上げた。社員や学生時代の人脈、SNS(交流サイト)のつながりを生かし、活動の幅は県外にも広がっている。「いろいろな場所でいろいろなコミュニティーに入って、バランスを取りながら生きていきたい」。そこで新たな発見があれば、福井に還元したいと思っている。

 北陸新幹線が福井にやってくれば、おもてなしを含めたサービス産業の充実が求められる。福井県立大学地域経済研究所の南保勝所長は「男性がイニシアチブを取る産業構造は停滞する。特にサービス産業では女性の活躍がポイント。これまで苦手とされていた外へ開いた福井への転換が求められる」と指摘。県内企業の男女待遇の差はなくなってきていると前置きした上で、「男女が精いっぱい働ける社会環境の整備が大事。男性の育児休暇など、男性側の意識改革が必要」と話している。

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