電車少ないし閉鎖的な所あるけど…県外出身ママが見る福井 不満を上回る心地よさ

【グラフィックレコード】県外出身ママが見る福井
幼児教育施設の運営に携わる横浜出身の酒井友季子さん(左)。「福井は伸び伸び子育てできる」と話す=2022年11月、福井県鯖江市の「モクモク学園」

 「就職面接の際、時刻表を見ずに出かけたら、次の鈍行電車まで1時間待ちだった。慌てて特急に飛び乗った」。神奈川県横浜市出身の酒井友季子さん(42)=福井県鯖江市=は、福井に転居するまでろくに発車時刻を調べたことがなかった。都会は駅のホームに立てば数分おきに電車が来る。「田舎の『車社会』とはそういうことか」。カルチャーショックを受けた。

 鯖江市出身の夫と結婚して15年前に鯖江に移住し、おととし離婚。シングルマザーとして中学生と小学生の娘と暮らす。離婚当初は住まい、子どもの学校、世間からの目など不安だらけで、実家に戻る選択肢もあった。「都会にないものが鯖江にはある。澄んだ空に浮かぶ月の明かり、夏のカエルの鳴き声、稲刈り後の野焼きのにおい。30分もあれば海にも山にも、ホタルがいる川にだって行ける」。自然との距離が近く、季節をダイレクトに感じながらリフレッシュできる環境から離れられなかった。

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 自然環境を魅力に感じる県外出身者は多い。愛知県名古屋市出身の下石マリナさん(30)は昨年2月、家族で小浜市に移住した。福井県にゆかりはないが、養蜂を営む場所を探す中、旅行した際に海山の自然が印象深かった小浜を選んだ。「元気なミツバチの様子からも環境が優れていることが分かる」と太鼓判を押す。

 幼い子どもが2人おり、子育てのしやすさも引っ越す上での基準の一つになった。名古屋では団地に住み、常に他人の迷惑にならないか考えて行動していた。車の通行量も多く、事故の心配もあった。小浜では里山の一軒家で伸び伸び育児している。「お年寄りから若者まで、子どもの行動に寛容な雰囲気がある。気を使わず子育てできるのがとてもありがたい」

 ただ、外国に親族のルーツがある下石さんは、県民が外国人慣れしていないと感じている。「英語を話せる人も都会に比べて少なく、飲食店メニューの英語表記も少ない」と話す。

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 福井の保守的な一面を指摘する声もある。酒井さんは「何かを変えようという人に対して『出る杭は打つ』的な閉鎖性を感じることはある」と認めつつ、その不満を上回るメリットも感じている。ハンドメイド作家としてクラフト市の開催など、まちづくりに関わり、鯖江市内の幼児教育施設の運営にも携わる。「都会だと個々の存在は埋もれてしまいがちだが、田舎は自分たちの活動に対して反応が大きく返ってくる」

 地域を身近に感じ、都会に比べて行政の風通しも悪くなく、自分の存在意義を確認できる。「大切なのは自分にとって心地の良いコミュニティーがあるかどうか」。シングルになっても鯖江に残ることにした最大の理由は、そこにあるような気がしている。

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