救急搬送困難1カ月で1000件 栃木県内、病院到着まで数時間も

臨時医療施設で患者対応に当たる医療従事者と救急隊員=昨年12月下旬(県提供、画像は一部加工しています)

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、栃木県内の救急医療に深刻な影響が生じている。要請を3回以上断られるなど搬送先の決定に時間がかかる「救急搬送困難事案」は15日までの約1カ月間で計千件で、その前の1カ月から約6割増。要請を20件近く断られ、搬送まで数時間を要するケースもあり、危機的な状況が続く。

 1月中旬、宇都宮市の済生会宇都宮病院救命救急センターに病気による出血が多くショック状態の高齢女性が搬送されてきた。コロナ感染を理由に断られることもあるが、女性はコロナではなかった。17回断られ、同センターに到着したのは救急要請から約4時間後だった。

 同センターでも患者が集中し、受け入れを断らざるを得ないこともある。コロナ患者に病床が占められ、通常の病床は減っている。1月は脳卒中や心筋梗塞などが増える。新年から治療を始める患者も多く、通常の入院病床も埋まりがちだという。

 篠崎浩治(しのざきひろはる)副院長は「一般診療も含めて病院の状況は非常に厳しい」と訴える。

 栃木市消防本部管内は、12月の搬送困難事案が66件あった。11月の15件から4倍以上に急増し、1月も高止まりの状況だ。赤羽根一(あかばねはじめ)救急管理係長(50)は「救急車が常時出動しているのが現状」と指摘。搬送を終え、消防署に戻る途中で再び出動要請が出される事態が頻発している。

 昨年末、東京都内で救急隊員が十分な休憩を取れないまま救急車を運転して横転する事故も発生。同本部の落合洋文(おちあいひろふみ)救急係長(49)は、出動が重なり十分な睡眠が取れないこともあるとして「対岸の火事ではない」と懸念する。

 増え続ける搬送困難事案に対処しようと、県は昨年12月28日、救急車を直接受け入れる臨時医療施設を開設。1月19日時点で搬送先が決まらないコロナ患者101人を受け入れてきた。

 開設に携わった済生会宇都宮病院の小倉崇以(おぐらたかゆき)救命救急センター長(39)は「焼け石に水かもしれないが、少しでも病院の負担を減らしたい」と話す。コロナの感染症法上の分類が5類へ引き下げられる方向で検討が進む一方、「患者の急増に医療体制が追いついていない」と指摘。「今後の感染症拡大を見据え、医療体制を見直す必要がある」と訴えた。

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