2022年上場企業の早期・希望退職は38社 コロナ直撃業種の募集が一巡、2019年の水準まで減少 2022年上場企業「早期・希望退職」募集状況

 22022年に早期・希望退職募集を開示した上場企業は、38社だった。前年の84社から46社減(54.7%減)と半減し、コロナ禍前の2019年(35社)とほぼ同水準で、30社台は3年ぶりとなった。
 業種別では、最多は機械の5社で、コロナ禍が直撃し前年4社の外食はゼロだった。

 募集人数は、人数を公表した31社(若干名は除く)の合計5,780人で、前年(1万5,892人)から63.6%減と大幅に減少した。募集人数が1万人を切ったのは、2018年(4,126人)以来、4年ぶり。前年5社だった1,000人以上の大型募集は1社に減少。100人未満の募集(若干名は除く)が21社(構成比55.2%)と全体の半数を占め、比較的規模の小さな募集が多かった。
 業種別では、コロナ禍の影響が大きく、2020年から2年連続で最多だったアパレル・繊維製品(4社)を抜いて、機械(5社)が最多となった。このほか、電気機器(4社)や医薬品(3社)など、コロナ前に多かった業種が上位に入り、外食(前年4社)はゼロだった。
 また、本業の落ち込みに加え、百貨店やホテルなどグループ事業も不振に陥った鉄道・航空(前年5社)が2社、観光(前年4社)も2社に減り、コロナ禍での急増業種は募集が一巡した。
 2023年は1月下旬までにすでに6社の実施が判明しているが、コロナ禍による人員削減は一服感が出ている。ただ、2022年末から海外では米国を中心に、大手IT系企業で大型の人員削減が相次いでおり、日本でも雇用人員が多い製造業を中心に、先行きの不透明感も漂っている。

  • ※本調査は、早期・希望退職者募集の実施を開示し、具体的な内容を確認できた上場企業を対象に集計した。対象期間は、実施期間が2022年1月1日から2022年12月末までの募集とした。実施期間が2023年1月1日以降は対象外とした。
     
  • ※情報開示は、『会社情報に関する適時開示資料』(2023年1月25日公表分まで)などに基づく。
     
  • ※募集形態は、「早期・希望退職」のほか、退職時に加算金を盛り込む「退職勧奨」や「選択定年、キャリア支援制度」等を含む。

事故件数は前年比1.2倍増の165件、社数・事故件数とも最多

 2022年の事故件数は165件(前年比20.4%増)で、年別では2012年に調査を開始以降、最多となった。また、社数も150社(同25.0%増)で、これまで最多の2021年(120社)を30社上回った。
 社数と事故件数は2021年に続き、2年連続で最多を更新した。
 2022年の事故165件のうち、情報漏えい・紛失人数は「不明・その他」が最多の67件(構成比40.6%)だった。実態がつかめない、あるいは「調査中」などとして具体的件数の公表を控えるケースが多い。次いで、「1,000人以上1万人未満」が39件(同23.6%)、「100人未満」が20件(同12.1%)、「100人以上1,000人未満」が16件(同9.6%)と続く。
 100万人以上に及ぶ大型事故は2件(同1.2%)発生した。グループ内で顧客情報を誤送信したJ.フロントリテイリング(191万3,854人分)、不正アクセス被害を受けた森永製菓(164万8,922人分)だった。2022年の累計人数は592万7,057人分(前年比3.0%増)で、前年(574万9,773人)から微増した。なお、調査を開始した2012年以降の11年間で、累計は1億2,572万3,522人分に及ぶ。

0127早期希望メイン

募集人数 1,000人超は1社、半数は「100人未満」の募集

 募集人数は、最多が富士通で、50歳以上の幹部社員(定年後再雇用含む)を対象に実施した「セルフ・プロデュース支援制度」に3,031人の応募があった。1,000人以上は富士通の1社(前年5社)のみ。次いで、訪問販売事業からの撤退を公表したジャノメが300人(募集予定人数)、国内の複数のグループ会社が対象となった日本ペイントホールディングスの271人と続く。
 「100人以上」の募集は10社(構成比26.3%)にとどまり、半数以上が「100人未満」(21社、構成比55.2%)だった。
 また、人数が非開示だが、割増(特別)退職金を10億円以上計上した募集は、武田薬品工業(グループ会社で実施、27億3,900万円)、東洋製罐グループホールディングス(10億3,800万円)の2社で、製造業で比較的規模の大きな募集が行われた。  

業種別 「機械」が5社で首位 外食は3年ぶりに発生ゼロ

 早期・希望退職の実施を開示した38社の業種別は、最多は「機械」で5社(構成比13.1%、前年4社)だった。2020年、2021年に首位だった「アパレル・繊維製品」は4社(前年11社)と7社減少した。この他、「電気機器」(同10社)、「情報通信」(同3社)も各4件でアパレル・繊維製品と並んだ。なお、情報通信は4社中3社が出版・テレビなどのメディア関連だった。
 2021年に4社発生した「観光」は2社にとどまり、同じく4社だった「外食」「小売」はそれぞれゼロとなった。新型コロナが直撃した業種での退職者募集は一巡したようだ。
 一方で、機械、電気機器、医薬品などコロナ禍前に相次いだ製造業での募集が目立ち、募集業種のトレンドはアフター・コロナに向け、新たなフェーズに入ったようだ。
 

0127早期希望業種

損益別 直近決算の「黒字」が約6割

 募集企業の直近本決算の当期損益は、57.8%(22社)が黒字だった。新型コロナによる業績不振で募集が相次いだ2020年、2021年は赤字企業が黒字企業を上回ったが、2022年は2019年(黒字企業率57.1%)以来、3年ぶりに黒字が赤字を上回った。
 業績が堅調な製造業でも退職者の募集が行われたほか、地方拠点の撤退・統合などに伴う募集も散見された。
 

0127早期希望損益

上場区分別 中小上場の割合高まる

 募集企業の上場区分では、大手企業で構成される「プライム市場」が最多で22社(構成比57.8%)だった。
 次いで、中堅企業を中心に構成する「スタンダード市場」が14社(同36.8%)、新興企業が中心の「グロース市場」が2社(同5.2%)だった。
 「プライム市場」が最多だったが、実施企業全体に占める構成比は前年(61.9%)に比べて、4.1ポイントダウンした。一方、スタンダード(前年29.7%)は7.1ポイント、グロース(同4.7%)は0.5ポイントそれぞれアップした。
 上場企業の中でも、中堅企業による拠点の統合や部門廃止などによる100名未満の募集が相次ぎ、プライム以外の市場の割合が上昇した。 

 2022年の「早期・希望退職」を募集した企業は、前年比54.7%減の38社にとどまった。2019年以来、3年ぶりの30社台で、コロナ禍以降で最少となった。コロナ禍で急増したアパレル・繊維製品(4社)、観光(2社)が減少したほか、小売や外食は実施企業がなく、コロナ禍が直撃した業種での募集には一服感が出た。
 募集人数は、判明した31社で合計5,780人で、2018年の4,126人以来、4年ぶりに1万人を下回った。2013年以降の10年間でも2017年(3,087人)、2018年に次ぐ3番目の低水準だった。
 雇用人員が多い製造業を中心に実施された1,000人超の大規模募集も、2022年は1社(前年5社)に減少、人数が抑えられた。
 しかし、人数非開示の企業では、武田薬品工業が子会社の事業構造改革に掛かる費用に27億3,900万円、東洋製罐グループホールディングスは国内連結子会社で行った希望退職募集に10億3,800万円を計上しており、規模の大きな募集にも関わらず内容を非開示にする事例もある。
 損益別では、2022年は2019年以来、3年ぶりに黒字企業が赤字企業を上回る「先行型」募集が相次いだ年となった。コロナ禍で業績が悪化した企業による「止血的」な募集から、製造業を中心に自社の先行き、将来を見据えた募集も散発し、早期・希望退職を取り巻く環境はアフターコロナに向け、一歩フェーズを進めている。
 上場区分別でも、前年に比べ、プライム市場での募集の割合が減り、スタンダード市場の割合が拡大した。中堅規模の上場企業でも、将来を見据えたビジネスモデルや不採算事業の見直し、拠点の統廃合を推進し、その一環として募集を行うケースも発生している。今後は、企業の規模や業績にかかわらず、小規模の募集を中心に人員削減に取り組む企業が出てくるとみられる。

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