シベリア抑留

 正月明けの長崎市の映画館。20歳前後だろうか、2人組の男性が券売機で選んだのは、筆者と同じ「ラーゲリより愛を込めて」だった。観客席には、ほかにも若者の姿がちらほら。意外な気がした▲原作は「収容所(ラーゲリ)から来た遺書」(辺見じゅん著、文春文庫)。終戦後の過酷なシベリア抑留を描いたノンフィクションだ。重いテーマだが、二宮和也さんら人気俳優が出演しているとあって幅広い世代が足を運んでいるようだ▲波及効果も出ている。抑留者らの労苦を伝える東京の平和祈念展示資料館では昨年の上映開始前後から入場者が増えたそうだ。中でも20、30代とみられる女性が目立つという▲「本来は高齢者の来館が多い施設。最近は若者が半数以上を占めています」と広報担当者。「これを機に抑留の歴史を広く知ってもらえれば」▲九州でも、大刀洗平和記念館(福岡県筑前町)がシベリア抑留の企画展を始めた。職員は「過去にも開きましたが、今は映画で関心が高まっているので、もう一度この機会に。ウクライナと重ねながら、より身近に感じてほしい」と話す▲もうすぐ1年になるロシアの軍事侵攻では捕虜への虐待や拷問も伝えられている。過去を学びつつ、戦場と化した街の今、極寒の地で死におびえる市民の今にあらためて思いを巡らせたい。(真)


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