キツネの独白

 子ギツネは片方の手を、母ギツネの魔法で人間の手に変えてもらう。いいかい、里の帽子屋で、戸の隙間から人間の手の方を見せて手袋をもらうんだよ。キツネと分かれば、おりに入れられるよ…。硬貨を握り締め、子ギツネは雪の山を下る▲北陸や東北で大雪という話題に触れ、なんとはなしに「ごん狐」(ぎつね)で知られる新美南吉(にいみなんきち)の童話集を開く。「手袋を買いに」という短編で、心の優しい帽子屋はキツネと知りながら、戸の隙間から手袋を持たせてやる▲現実はどうだろう。手袋では温めようのない、心の凍えるニュースが続く。一連の広域強盗事件で、指示役らしい男たちがフィリピンの入管施設に拘束されている。特殊詐欺事件とも関連があるとみられる▲実行犯らしい男たちが逮捕されたが、どうやらネットでの募集に軽々しく乗っかり、身分証を示し、家族構成を知られて、気づけば抜け出せなくなる図式もあるらしい▲同情はしないが、「分け前、ちょうだい」と差し出した手を指示役たちからぐいと引かれ、身動きが取れなくなる姿が浮かぶ。心の隙間につけ入り、増殖する悪事をどう絶やすか▲人間は怖くなかったよ。無事に帰った子ギツネは事の次第を聞かせ、物語は母ギツネの独り言で終わる。「ほんとうに人間はいいものかしら」。答えに詰まる。(徹)


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