なり手不足、議員自ら“募集” 小値賀町議会の行方 定数割れ回避へ試行錯誤

小値賀町議選への立候補を呼びかける「町議会だより特別号」

 昨年11月、長崎県北松小値賀町の全世帯に配られた「町議会だより特別号」に、まるで求人誌のような大見出しが躍った。「大募集!求む!あなたの力を!議会に!」。今春の同町議選で立候補者数が議員定数を下回るかもしれない、という危機感が色濃くにじんだ。
 五島列島の北に浮かぶこの島の人口は約2200人。平成初頭に比べ半減した。かつて多くの市町村が人口減少や財政難を理由に合併していった。小値賀町も一時は隣島の宇久町と一緒に佐世保市入りを模索したが、是非を問う住民投票は小差で否定。自立の道を選択した。あれから18年あまりたった今、小値賀町の人口に占める65歳以上の割合「高齢化率」は5割を超えた。
 地域の縮小に合わせるように、町議会は1989(平成元)年時点で14だった定数を2003年度以降、12、10、現行の8へと段階的に減らしてきた。
 19年の前回選は、締め切り直前に元職が届け出て、なんとか定数割れは回避され、無投票だった。だがその後、1人が辞職したため現状は欠員1。しかも平均年齢は県内の議会で唯一70歳を超えており、複数の現職が健康上の懸念などから今期限りで引退する意向を示している。
 町民が地方自治に無関心な訳ではない。2000年代以降も町長選・町議選の投票率は毎回90%を超えている。

4月に改選を迎える小値賀町議会。定数割れ回避に向け試行錯誤を続けてきた=同町

 町議会は改革に積極的だ。働く人も傍聴しやすいように12年から夜間議会を開催。15年には議員の一般質問後に傍聴者が質問したり意見を述べたりできる模擬公聴会も始めた。16年、理念や使命を定めた議会基本条例を制定し、通年議会や出前議会、議会アドバイザーなどの制度を採用。こうした先進的な実践は外部からの評価も高く、早稲田大マニフェスト研究所の「第9回マニフェスト大賞」では優秀成果賞に輝いた。
 一方、一般質問に立つ議員が一部に限られるなど、若い町民からは「頑張っている議員もいるが、何をやっているのか見えない議員もいる」と厳しい声も上がる。21年、町議会が実施した全町民アンケートで「議会に関心がある」と回答したのは4割。7割が傍聴したことがないと答えた。1票は投じても、その後の議会活動までは目が向かない実態が浮かぶ。
 立候補が6人以下の場合は再選挙となり混乱する。町の存続が危うくなる-。「町議会だより特別号」は議員のなり手不足の弊害をこう強調した。議員の仕事や1年間の行動記録を紹介し、横山弘藏議長(71)が最終ページにメッセージを寄せた。「議員の仕事はマジ地味なのです。(中略)議会の決断なくして町は何一つ動くことができないのが議会と首長の二元代表制の意味であり、議会は町民あっての存在なのです」
 編集の中心を担った今田光弘副議長(65)は「ここまでやって定数に届かなかったらしょうがない」と腹をくくる。ただ選挙戦になれば議席を確保できる保証はなく、自分の首を絞めてしまうというジレンマもある。「議員が立候補者を一生懸命集めて、自分たちが落選したら笑い話ですよね」
 
 4月の統一地方選で改選を迎える小値賀町議会。若者や女性の参画が少なく、なり手不足という課題は全国の地方議会に共通する。定数割れの懸念にさらされながら試行錯誤を重ねてきた同町議会の行方を探った。


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