『思い受け継ぎ消防団員に』金山千尋さん(28) 長崎・グループホーム火災から あす10年

火災現場前で、当時の様子を千尋さんに語る金山康治さん=長崎市東山手町

 5人が死亡、7人が重軽傷を負った長崎市東山手町の認知症高齢者グループホーム「ベルハウス東山手」の火災から8日で10年を迎える。火災後、施設側の防火対策の不備など多くの問題点が明るみに出たが、今、教訓は生かされているのか。「悲劇を二度と繰り返さない」。そんな思いを受け継ぎ、地域の人たちの命を守るため一歩踏み出した人もいる。

 「もう10年たつんですね」。火災当時、偶然通りかかった元長崎市消防団梅香崎地区第15分団員の金山康治さん(60)=諫早市=は振り返る。
 あの夜、「ベルハウス東山手」の窓から黒煙が上がっているのが見えた。「中に誰かいるなら助けないと」。玄関のそばに車を止めて入居者の救出を加勢した。無我夢中だった。消防隊はまだ到着しておらず、気が動転した様子の女性職員が泣きながら何度も火災現場に入っていた。
 金山さんが救出したのは男性2人。煙で中はほとんど見えなかったが、職員が玄関先まで連れ出した人を外へ引きずり出した。後にニュースで、玄関がある2階だけでなく1階や3階にも入居者がいたことを知った。「もし(職員から)状況や建物の構造を聞き出せていれば、救えた命があったかもしれない」。後悔が今も胸に残る。
 金山さんのめいで、長崎市の会社員、千尋さん(28)は、火災の記憶はおぼろげだが、叔父の話を聞き「自分も地域の役に立ちたい」と女性消防団に入った。広報などを担当していたが「現場に立ちたい」と決意。5年ほど前、地元の「15分団」にも入団した。昨年8月には県消防ポンプ操法大会に出場し準優勝を果たすなど活躍。地区の消防訓練などにも積極的に参加している。
 今は退団した金山さんは、千尋さんの活躍に「うれしい」と顔をほころばせつつ、「もし火災の現場に居合わせたら救出に当たるのが役目」と強調する。2人の人生に大きく影響した10年前の火災。千尋さんは「何かあってからでは遅い。梅香崎地区の高齢者施設などとも顔が見える関係をつくっていきたい」と話した。


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