『こちらへ』では分からない…長崎市初の障害者「模擬選挙」 当事者の意見、どう生かす?

投票箱の穴の位置を手で確認する小川さん(中央左)。候補者名を点字器で記入し模擬投票した=長崎市茂里町、もりまちハートセンター

 障害のある人もない人も投票しやすい環境とは-。長崎市選管は今春の統一地方選を前に、障害者を招いた模擬選挙を初めて実施した。投票する際の困り事や要望を当事者の立場で挙げてもらい、投票所などの改善に生かす。さまざまな課題が浮かび上がった。

■不安
 「こちらへどうぞ」
 「私は『こちら』では分かりませんよ」
 市内で7日開かれた模擬選挙でのやりとり。全盲の小川泰則さん(65)=同市春木町=は、投票をサポートする係員に「『右』『左』『何歩進んで』など具体的に示してほしい」とアドバイスした。係員の肘に手を添えて投票所内を移動し、専用の器具と投票用紙を使って点字投票した。
 小川さんは以前、投票所で声かけがなかったり、急に手を握られたりして不安を感じたこともあったという。「選管に意見を直接伝えるのは初めて。どの投票所も同じ対応をしてほしい」と求めた。

■特性
 市心身障害者団体連合会(松村正信会長)が協力し、投票所を模した部屋で知的、身体などの障害がある8人が投票した。
 当事者や支援者からは、障害特性ごとに意見が相次いだ。投票所内の移動順序を番号や矢印で示す案や、掲示物や選挙公報にルビを振るよう求めた。知的障害者の投票を巡り、家族が「うちの子は意思表示ができない」と判断し投票を断念してしまう事例もあると報告した。

障害者の投票を巡る意見の一部

 市選管も障害者の投票を支える仕組みを説明した。「代理投票」制度では、自ら投票用紙に書けない人を投票所の係員2人がサポート。1人が有権者の意志を確認して候補者名や政党名を書き、もう1人が適切に記入されたか見届ける。投票所に行けない場合、一定の要件を満たせば指定の病院や福祉施設での投票や、郵便投票なども可能になる。

■宿題
 市内の期日前投票所32カ所(前回参院選)の動線は全てバリアフリーで、2カ所に手話通訳者を配置。一方、選挙当日の投票所155カ所(同)の一部はバリアフリーではなく、車いす利用者には簡易スロープを設置したり人力で運んだりして対応している。
 市選管は「費用面や公選法の関係で急な対応が難しい内容もある」とするが、投票所係員の対応次第で改善できることもあった。職員の啓発という“宿題”も見つかり、市選管は「研修をしっかりする」と誓った。


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