銭湯料金は行政が決めていた いまも「物価統制令」の対象に 【あなた発 とちぎ特命取材班】

銭湯の浴室の前に張られた料金改定を知らせる通知=2月上旬、宇都宮市内

 栃木県内にある銭湯の入浴料金の上限が15日、現行から40円引き上げられる。2月の県公報に、新たな入浴料金に関する告示が掲載された。民間事業者が経営する銭湯の料金を、なぜ行政が決めているのか。背景には、戦後間もなく定められた法令の存在があった。燃料価格の高騰など施設側の苦しい懐事情を含め、下野新聞「あなた発 とちぎ特命取材班」(あなとち)の記者が探った。

 入浴料の上限は、大人(12歳以上)が40円値上げし460円に。中人(6~11歳)は20円引き上げ200円、小人(6歳未満)は10円上げて100円となる。

 県公衆浴場業生活衛生同業組合が昨年12月、経営環境が厳しいとして県に値上げを要望した。業界団体や専門家らでつくる県公衆浴場審議会は福田富一(ふくだとみかず)知事に引き上げを答申し、福田知事が改定を決めた。

 県生活衛生課によると、料金は戦後間もない1946年に出された「物価統制令」に基づいて決まる。物価高騰を防ぎ、社会秩序を維持するために制定された。自家用の風呂の普及率が高くなかった時代に、地域住民が気軽に利用し、衛生状態を保つため銭湯も対象となった。さまざまな価格統制が撤廃された中、入浴料金だけは現在も続く。

 銭湯は入浴料を自由に決めることができない一方、固定資産税や水道料金などの減免措置を受けられる。似た施設でもスーパー銭湯や健康ランド、スポーツ施設に併設された風呂などは保養や休養が目的とされ、統制対象にはなっていない。

 県によると、県内にはピーク時の1960年代、約140軒の銭湯があったという。自家用の風呂の普及などで次第に減少。現在、県内に残る銭湯は宇都宮や足利、栃木、小山、那須塩原市の計7カ所のみだ。

 値上げの背景には、銭湯が直面する厳しい経営環境がある。

 宇都宮市の「宝湯」では、ロシアのウクライナ侵攻などに伴う燃料費高で、湯を沸かす都市ガスの値段が例年の2倍以上に上がった。新型コロナウイルス禍による利用客の減少も経営を圧迫。代表の稲垣佐一(いながきさいち)さん(73)は「利益は出せず、ボランティアでやっているような状況だ」と嘆く。

 値上げ後も採算が合う料金にはまだ及ばないが、「お客さんのことを考えるとこれ以上は難しい」と吐露する。先行きが見えない現状を苦慮し「早く戦争が終わってほしい」と願った。

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