『グランドデザイン』描けるか 市民の合意形成の在り方模索 <長崎市政・田上市長4期16年>

長崎市公会堂跡地に建てられた新市庁舎(中央)。都市の全体像を示すことが市に求められる

 今年1月、長崎市魚の町に新市庁舎が開庁した。地上19階建ての高層ビルがそびえる敷地にはかつて、戦後復興を象徴する施設で、市民の文化活動の拠点だった市公会堂があった。
 市長の田上富久が、桜町の市庁舎を公会堂敷地に建て替えると表明したのは2013年1月。庁舎の老朽化や耐震強度不足を理由にその2年前から「現地」か「公会堂」かの2案で検討していた。庁舎跡地に公会堂に代わる文化施設を建てることも決めた。
 原爆復興の「長崎国際文化センター」事業の一環で1962年に建設された公会堂。近代建築としての価値も国際学術組織が高く評価していた。市民団体が歴史的価値と存続を訴えたが、2014年6月の市議会で15年3月末での廃止が決まった。
 存続を求める市民運動は続き、16年には公会堂と新市庁舎を巡って住民投票を求める直接請求が計3回あった。だが田上はいずれも「反対」意見を表明。議会も「すでに議論は尽くされている」などとして住民投票の条例案を否決した。その後もMICE施設整備の是非などを巡る住民投票の直接請求が2回続き、田上が掲げる「市民力」が皮肉な形で発露したが5回とも実現することはなかった。
 公会堂存続を訴えた市民団体で副代表を務めた中村享一(72)は「代案を提示し対話をしたかったが、市は市庁舎建設ありきで耳を貸さなかった」と振り返る。建築家の視点から「壊して新しいものを造るという時代ではない。市の進め方は場当たり的で、都市の全体像がなかなか見えない」と苦言を呈す。
 県都のハード整備は新市庁舎に加え、21年に出島メッセ長崎が開業。新幹線開業に伴うJR長崎駅周辺の再開発も一定進んだ。来年9月には駅北側の幸町に大型複合施設「長崎スタジアムシティ」が完成予定だ。
 大きなプロジェクトが進行する中、都心部のグランドデザインが描かれていないとの指摘は以前からあった。市は指針となる「長崎都心まちづくり構想」の策定に着手。昨年7月に学識経験者らによる検討委員会を設け、23年度中の取りまとめを目指している。
 市中心部の活性化に重要な県庁跡地(江戸町)活用を巡っては県が昨年10月から現地に職員を常駐させ、ニーズを探る試みを続ける。価値観の多様化やデジタル化の進展など社会が大きく変化する中、行政もまた、市民の合意形成の在り方を模索しているように見える。
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