“便利な町”大村 産業振興いかに 創業や販路開拓支援も、商店街の活性化に課題

創業希望者を対象に開かれた大村市創業塾。受講生の年齢層は幅広い=市コミュニティセンター

 2月8日夜、長崎県大村市幸町の市コミュニティセンターでは、創業希望者らを対象に経営に関する基礎知識を教える「大村市創業塾」が開催されていた。参加していたのは30代から70代まで幅広く、新たな挑戦や定年退職後の働き口確保など目的もさまざまだ。
 最終回のこの日は受講生代表が、キャンプ場やテイクアウト専門の飲食店の経営、産後ケア・育児支援などのビジネスプランを発表。「自分史」や「会社史」を紹介するウェブサイト制作事業を計画する男性(36)は「勉強になったし、同じ志を持つ人たちとつながれたのが大きい。自分が頑張った分、見返りがあるのが(創業の)魅力」と話す。
 創業塾は2015年度に開講。中小企業診断士を講師に、1カ月で基礎知識や営業方法、資金計画などを学ぶ。受講後も補助金申請や経営相談などの支援を受けられる。24期開き、延べ465人が受講。市に報告があった分で90人の創業につながったという。
 県の市町民経済計算(19年度)によると、大村市の総生産の構成比は第3次産業が約74%と大部分を占める。市は第5次市総合計画の後期基本計画(21~25年度)の中で、商工業の振興に向けた施策の一つに創業支援を掲げており、25年度までに105件の創業を目指している。
 さらに17年度に開設した市産業支援センターを通じ、中小企業の販路開拓や新商品開発を支援。昨年は創業者の交流や仕事の場として使用できる支援施設「onova(オノバ)」を同センター横に併設した。今春から同センター長を新たに迎え、運営を大村商工会議所に委託する。市商工振興課は「経営のプロである商議所が運営することで、より柔軟な経営相談や創業支援につなげたい」とする。
 こうした支援策の一方、個人商店が集まる商店街の活性化には課題も残る。
 JR大村駅前の中央商店街アーケードで市はかねて、商業施設「コレモおおむら」や市民交流プラザ、ミライon図書館などを生かし、一帯の空き店舗対策やにぎわい創出に取り組んできた。
 そこに暗い影を落とすのが新型コロナ禍の影響。市商店会連合会の松下眞吾会長は「どの店も少なからず打撃を受けており、コロナ禍が落ち着いても以前のような売り上げに戻るかは疑問。起業するにも現時点では大変なのでは」と危機感を募らせる。
 同アーケードでは各店舗が一押しの商品を売り出す「一店逸品」運動など活性化策に取り組んできたが、シャッターが閉じたままの店舗や「テナント募集」の張り紙が目立つ。松下会長は「地方創生が叫ばれる中、移住だけでなく強い地元事業者や商店街を育てる政策を」と求める。
 市内中小企業の課題を検証し市長に提言する市中小企業振興会議の山口純哉会長(長崎大経済学部准教授)は、「中小企業が『今困っている』短期的な課題への対応はうまくいっている一方、中小企業振興に向けた中長期的な計画は不十分」と指摘する。
 県の中央に位置し、新幹線や空港、高速道路が集まる交通の要衝という強みを持つ大村市。ただ「これまで『便利な町』としか言ってこなかった」と山口会長。大村ならではの独自策をいかに打ち出し、市民に示していくか。市庁舎移転や新大村駅前開発など大型事業を控え、産業振興の方向性を示すビジョンが求められる。


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