劣悪環境、無免許で帝王切開…ペット繁殖施設の裁判でこみ上げた怒り 第2回公判を傍聴して【杉本彩のEva通信】

裁判の傍聴のため長野地裁松本支部に訪れた杉本彩さん=2月1日

長野県松本市の劣悪繁殖屋による、無麻酔で帝王切開をしていた史上最悪の動物虐待事件は、当協会Evaが2021年に刑事告発して明るみになった事件だ。劣悪な環境で、約1,000頭もの犬の繁殖を続けていた元代表の第2回公判が、先日2月1日に行われた。このコラムでも二度取り上げているが、改めてその詳細について触れておく。

この元代表は、松本市にある2カ所の飼育施設で、犬約1,000頭を30年程に渡り不適正飼養していた。犬の出産が近づくと、獣医師免許も持たない、獣医療の知識もない、手術手技もない中でオーナーと元従業員は、母犬の両手両足をケージに縛り付け固定し、メスで腹部を開き、商品となる仔犬を全て取り出していた。

帝王切開は、獣医師が行うから帝王切開であり、獣医師免許を持たない素人が行えば、それは単に腹を切る傷害行為にすぎない。警察官調書によると、犬の出産記録569頭のうち321頭は帝王切開だった。先日、傍聴した公判では、元オーナーと一緒に手術をしていた元従業員が、当初聞いていた内容とは随分違う証言をした。令和3年12月に釈放された後、それまで業務ミスを理由に給与から天引きされていた1000万円を、現金一括で証人の元従業員は受け取っており、またその後退職金も受け取ったとみられる。これらのことが証言を変えたことへ影響しているとしか思えない。そのためか、 証言の内容には一貫性がないように感じた。真実ならばブレずに迷わず証言できるはず。元オーナーの悪事を一緒になってやっていた証人の、反省と罪悪感の欠片も感じられない発言には、思わず筆記の手が止まるほど怒りが込み上げてきた。

帝王切開をした理由について、陣痛の始まった犬に対応できる医師が見つからなかったから、自分たちで緊急でやらないと母体が危ういからやっていたのだと、自らの行為を正当化した。また弁護側は、麻酔薬を使っていたから、 みだりに傷つけた行為に該当しないとし、帝王切開について無罪を主張したのだ。弁護側が主張する争点が、麻酔剤を使ったかどうかということにも違和感を覚える。ズブの素人がたとえ麻酔剤を使っていたとしても、決して許されることではない。果たしてその薬が麻酔剤であったのか、そうであっても薬剤の量もタイミングも安全に使用できるはずはなく、それを手術だと言いのける浅はかさには、開いた口が塞がらない。これらの行為は残酷な「手術ごっこ」にすぎない。 

また、弁護側と証人が度々口にした薬剤の名前は、ドミトールとアトニンである。アトニンは陣痛促進剤で、ドミトールは鎮静剤だ。弁護側はドミトールの使用について麻酔剤を使ったと主張するが、獣医師に聞くとドミトールは鎮静剤で、痛みを抑えたり手術の為に意識を喪失させる物とは全く違うのだ。腹を裂かれた犬がたとえドミトールを打たれていても痛くないわけではないという。今後続く公判では、使用薬剤についても次第に明らかになるだろう。

それに、刑事告発に至った別の元従業員の証言によると、犬が痛みで失神することもあったというのだ。

ドミトールを使っていたか否かは、まったく争点ではない。妊娠という母体にとって最善の配慮が必要な期間を、劣悪な環境でモノ以下のようにぞんざいに扱われ、最後には腹を切り裂かれた母犬たち。場合によっては子宮までも取り出して、母犬のお腹の中で無事に育った尊い命を、暴力で奪い取り金に替える。その醜くおぞましい行為にはむしずが走るほどの嫌悪を感じる。命や母体に対する冒涜だ。

この繁殖屋は、地獄のような飼育環境下で、犬の命を命とも思わない、人道に反した商売を長年続けてきた。ケージは4段に積み重なり、糞尿が溢れ、犬は爪が伸び放題、毛玉が出来て眼球も白く濁り、皮膚にコブがあったことを認識しながら医療にもかけていない。2つの犬舎ともいずれも犬の頭数が多く、人手不足で掃除に手が回らず酷い悪臭だった。このような虐待が、およそ30年もの間放置されていたのだ。

当協会に通報してきた獣医師は、元従業員から告発を受け、管轄の行政機関や警察、地元の獣医師会や愛護団体に情報提供を行っていたが、いずれも反応は薄く、まったく事態が動かなかったため当協会への通報に至った。そのあまりにショッキングな内容を聞いて、私たちは徹底的に追及することを決意し、行政へ再三に渡り通報を試みてきた元従業員の方からも詳しい内容を聞き、厳正な処分を求め刑事告発した。

しかし、このような残忍な行為により痛みと苦しみのなか命を落とした犬が多数いたにも関わらず、過去の判例を見ると、執行猶予で実刑を免れるような判決が出る可能性が非常に高い。この悪質さで、それでは到底納得がいかない。またこのような災害レベルの動物虐待事案について、軽微な罪で終わってしまったら、今回の件が今後の同種事案の量刑の基準となり与える影響は大きいはずだ。後を絶たない動物虐待・殺傷事犯が裁かれる時、それが相場となってしまう悪い前例となることは、何が何でも避けたい。それでは、何のための厳罰化だったのか。   動物殺傷罪は、2019年の法改正で「2年以下の懲役又は200万円以下の罰金」から倍以上の「5年以下の懲役又は500万円以下の罰金」へと大幅に引き上げられた。動物虐待罪に関しては、「100万円以 下の罰金」から「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」に、こちらも厳罰化された。厳罰化前の法定刑では厳正に裁くことができないという国民の社会通念が、大きなムーブメントを起こし議員立法によって実現した厳罰化なのだ。だからこそ、厳罰化した法律に従って、厳正に裁かれるべきだという国民感情は強い。 今回の事件は、動物殺傷罪が厳罰化された後に行われた5件の帝王切開であり、法定刑は「5年以下の懲役」だ。また5件の傷害行為なので、併合罪として、最も重い罪の1.5倍である「7年6月以下の懲役」の中で、量刑されることになるはずだ。

そのことから当協会Evaは、長野地方検察庁に対し、帝王切開による傷害罪により、懲役7年6月の求刑をもとめるべく署名を募りたいと思っている。執行猶予のつかない実刑に処されるべき、残酷非道な犯罪なのだ。悪質繁殖屋を淘汰するためにも、厳正に裁かれることが必要だと思う。 皆様には是非とも今後スタートする署名にご協力いただきたい。 (Eva代表理事 杉本彩)

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 杉本彩さんと動物環境・福祉協会Evaのスタッフによるコラム。犬や猫などペットを巡る環境に加え、展示動物や産業動物などの問題に迫ります。動物福祉の視点から人と動物が幸せに共生できる社会の実現について考えます。

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