ブチャ市民虐殺で青い瞳に刻み込まれた悲しみ、再建への希望…松田邦紀・駐ウクライナ大使が語る現状

ブチャ市の集合住宅などに温水を供給する施設に、日本の支援で設置された発電機を視察する松田邦紀大使(右から2人目)やブチャ市副市長ら=2月9日(筆者提供)

 【福井新聞2023年2月23日掲載・松田邦紀駐在大使の寄稿】ウクライナに対するロシアの全面的侵略戦争が始まってから1年がたとうとしている。この間、ウクライナは、首都キーウに迫ったロシア軍を撃退し(3月)、ハルキウ(ハリコフ)州(9月)、東部ドンバスの一部、そして州都を含む南部ヘルソン州の一部(11月)を奪還することに成功した。態勢を立て直すべく部分的動員を断行したロシアは現在、ドンバスにおいて攻勢をかけているが、ウクライナ軍もよく耐えて戦線を死守しており、連日激戦が続いている。同時に、ウクライナ軍は欧米からの防空システム、戦車、装甲車等の武器・弾薬の提供を待って大規模反転攻勢の機会を狙っていると言われている。

 昨年10月に始まったロシア軍によるウクライナ各地のエネルギー施設や住宅を含む民間施設を狙ったミサイル・ドローン攻撃も続いており、民間人に多数の死傷者が出るとともに、首都キーウを含む各地で計画停電を余儀なくされている。しかしながら非常事態庁、警察、消防、電力会社、民間ボランティア等が連日連夜、危険を冒して現場の復旧に取り組んでいる。また、ウクライナ全土には数千の「不屈の拠点」が設置されて、市民に対するライフラインの提供も行われている。空爆によってウクライナ政府・国民を屈服させようとしたロシアの思惑は、ウクライナ人の勇気と忍耐の前に失敗している。最近、国連の人道支援の責任者は私に対して、この冬の危機を乗り切りつつあると述べて安堵の表情を見せた。

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 ゼレンスキー大統領は、ウクライナの主権と領土一体性については、ロシアに対する如何なる妥協も認められないとして、徹底抗戦の姿勢を維持しており、国民の大多数もこれを強く支持している。欧米諸国の指導者たちからも、ウクライナがこの戦争に勝利しなければならないという声が出始めている。先進7カ国(G7)議長国として、また、国連安保理非常任理事国として、我が国は、指導力を発揮して同志国の結束を維持・強化し、厳しい対露制裁と強力なウクライナ支援を継続するとともに、この戦争によるエネルギー・食料危機等の影響を受けているグローバル・サウスに対する関与を強化していくことが求められている。

 最近、私は、ロシア軍による一般市民への虐殺で不幸にも有名になったブチャ市を訪問して、日本から供与した発電機を視察するとともに、関係者と意見交換を行った。虐殺を目撃し、遺体の埋葬に奔走した教区司祭の青い瞳に刻み込まれた悲しみを前にして言葉を失ったが、他方で、悲しみを乗り越えて、市の再建のための青写真を熱心に説明してくれた若い副市長たちの希望に満ちた様子に逆に勇気づけられた。

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松田邦紀氏(まつだ・くにのり)福井県福井市出身。藤島高校、東京大学卒。1982年に外務省に入り、ロシア課長、香港総領事、駐パキスタン大使などを経て、2021年8月から駐ウクライナ大使。

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