子どもが就職、春からパートに…新生活で覚えておきたい税金の知識

3月になりました。この春から始まる新生活を控え、慌ただしく過ごしている方も多いかと思いますが、「新生活の準備が慌ただしくて、お金のことを考える余裕がない」ですって!? なんて……嘆かわしい!

新生活が始まる時こそ、お金や税について見直しが必要になるのです。新生活でどのような税がいくら変わってくるのか、しっかりと確認して手続きも忘れないようにすることで、あとで多額の税金を納めなくてはいけなくなるなど、大変な状況を回避することができます。

今回もお笑い芸人で本物の税理士である税理士りーなと一緒に、身近な税の知識を楽しく身につけましょう。特に子どもが就職する方や、パートで働き始める方など必見です。


子どもが就職

「この春から学生だった子どもが就職。新居を見つけたが3月末の引っ越し費用は高い、そして業者が見つからない! 知らない街でうちの子は1人、うまくやっていけるのだろうか?」

心配事は山積みでしょうが、我が子の手続きに追われて、自分がすべき手続きを忘れていませんか? 扶養していた家族がしっかり働いて、収入の面で独り立ちすることになりますので、「扶養から抜ける」という手続きをしておかなければなりません。

社会保険の手続き

社会保険とは、健康保険や厚生年金など、社会保障を受けるための掛け金です。学生だった子どもが就職して会社員になると、就職先の会社で社会保険に入り、健康保険や厚生年金などをかけはじめることになります。これまで親の社会保険に扶養として入っていた場合は、親の会社で一定の手続きが必要です。

扶養家族が就職先で社会保険に入ることになる場合は、社会保険の扶養から外れることになりますので、速やかに所定の申請書類を会社の人事担当者に提出してください。申請書類は親の会社が入っている協会けんぽや、健康保険組合により様式が異なりますので、必ず親の勤務先でどのような手続きが必要か確認してください。

手続きの際に、健康保険証を返しなさいと言われるので、子どもが就職先から新しい健康保険証をもらったからといって、捨てたりしないでくださいね。クレジットカードの更新と同じように古いカードを切って廃棄したりしたら、旧保険証を返却することができず、本当に「嘆かわしい!」ですよ。

税の扶養

今まで学生で収入がほとんどなく、可愛い我が子を養われてこられた方も、就職するとなるともう養う必要もなく、「養う子供がいて大変だったね」と引いてもらえていた「扶養控除」という金額がなくなることになります。特に大学生だった子どもについては、この扶養控除の金額が大きいので、就職した年の年末に行われる税金の計算「年末調整」の際に金額が前年と大きく異なることになるのです。

<扶養控除の基本>
配偶者以外の養っている家族「扶養家族」については、16歳以上の家族についてアルバイトやパートの給与収入が1〜12月の合計で103万円以下ならば、その年の年末調整で扶養控除を受けることができます。

なお扶養控除は、その扶養親族の年齢や同居しているかどうかによって金額が変わります。例えば所得税の場合、通常は38万円が儲けから控除されますが、大学生ぐらいの年齢なら控除額は63万円とかなり大きくなります。

参照:国税庁ウェブサイト「No.1180 扶養控除」

控除対象の扶養親族のうち、その年12月31日現在の年齢が19歳以上23歳未満の方は「特定扶養親族」といい、通常より所得税の控除額が25万円、さらに住民税でも12万円の控除が増えます。

年収400〜500万円なら、給与所得控除額を差し引いた給与所得金額=課税される所得金額の税率が10%になる方が多いと言われています。例えば所得税の税率を10%とすると、大学生だった子どもが就職すると63万円の控除がなくなるので、控除金額分×税率分の税金が増える、つまりその年の年末調整で所得税の金額が63万円×10%=63,000円も増えるということです。

いきなり「63,000円を払え」と言われたら「そんな大金払えません」と言いたくなりますね。そこで、子どもが就職したら正しい扶養の状況を会社に報告しておく必要があります。年末調整の時に必ず記入する「アレ」を4月の給料日前に会社に提出しておくのです。

画像:国税庁「令和5年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」より引用

この用紙は「扶養控除等申告書」または「扶養控除等異動申告書」といって、会社で年末調整を行い、1〜12月分の年収から所得税の計算をする時に、養っている家族がどのような状況かを会社に報告し、扶養控除を正しく加味した所得税を計算してもらうため、毎年年末近くなると提出していますね。用紙のタイトルに「(異動)」という文字があるように、年末時点での扶養の状態を報告するだけでなく、途中で扶養の状況が変わった場合も報告できる用紙なのです。

この用紙を就職した子どもの名前がない状態で会社へ提出しておけば、その子の扶養がない状態を想定して、毎月の給与から概算で天引きされる所得税の金額を、扶養が外れた今までより高い税額にしておいてくれます。つまり、年末調整の時にいきなり「6万円払いなさい!」「どひゃ〜!」とひっくり返らなくて済むように、天引きの金額を増やしておいてくれるということです。

会社の経理部や人事部などで、どのように用紙を手に入れればよいか、どこに提出すればよいかを確認しておきましょう。

年末調整は所得税の手続きですが、同様に住民税の控除も減ることになります。住民税については、年末調整で使ったデータをそのまま引き継いで使いますので、特に手続きは必要ありません。翌年の5月に会社へ納付書が届き、45万円の扶養控除がなくなっていれば年間45,000円の住民税が増えていることになります。

12ヵ月で割ると3,750円です。そのぐらいの金額が6月以降で増えているなと、給与明細の「住民税」の欄を確認しておいてください。

制度を理解しているだけで、意味不明の増税と勘違いすることを回避できますので、しっかりご自身の状況を踏まえて税額がどう変わるのか、認識しておきましょう。

子育てがひと段落してパートに

就職だけではありません。春から子どもが大学へ進学や、一人暮らしを始めるなど、子育てがひと段落して自分の時間が少しでき、「パートを始めようかな」「勤務時間を増やそうかな」と考えている方もいるのではないでしょうか? そんな時、気になるのが「社会保険の扶養」や「配偶者控除」です。

社会保険

社会保険の扶養に入るには、給与で1〜12月の年収が130万円以内(交通費を含む)なら扶養に入ることができます。しかし、パートの勤務先が従業員数101人以上の大きな会社なら、年収106万円が見込まれると「自分で社会保険に入ろうね」と言われてしまいます。パート先の勤務時間数など労働条件も影響しますので、勤務先で「社会保険の扶養内で働きたい」旨を伝えて、毎月いくら以内で働けばよいかを確認しておきましょう。

配偶者控除、配偶者特別控除

例えば、夫が主に働いていて、妻がパートという場合、夫の税額が安くなる「配偶者控除」という所得控除があります。かつては扶養控除と同様に、給与103万円というボーダーラインでしたが、年末近くなるとベテランパートの方々が「もうすぐ103万円になりそうだから11月と12月は休ませて〜」なんて言って、現場が大混乱ということもありました。

そんな問題を解消すべく、現在は配偶者控除に103万円の壁はありません。所得税の計算で引いてもらえる38万円の配偶者控除の壁は「150万円」です。

これは、給与年収103万円以内で受けられる「配偶者控除」とは別に、給与年収150万円以内でも同じ38万円の控除が受けられる「配偶者特別控除」という新しいルールが設定されたからです。おまけに、150万円を超えた瞬間に控除額が0円になるのではなく、少しずつじわじわと控除額が減っていくので、150万円ギリギリで抑えなくてもいいという制度になっています。

例えば、妻が153万円働いてしまったとしても夫は38万円控除が36万円控除になるだけです。夫の税率が10%だったとすると、所得税が2,000円増えるだけです。共働きが当たり前の時代になり、税制も、妻は働きたいだけしっかり働いても良いという仕組みに変わっているのです。

詳しくは、以前解説したこちらの記事をご覧ください。103万円を気にしてチマチマ働いていたら「嘆かわしい!」です。

ただし、注意すべき点が1つあります。

かつてあった「103万円の壁」に合わせ、企業ごとのルールで「配偶者手当」や「扶養手当」のボーダーラインを設定しているところも多いのです。また、手当の金額も会社によって様々ですので、金額があまりに大きいのなら103万円の壁を気にする必要も出てきます。

改めて、会社から支給される「配偶者・扶養手当」の金額や条件を確認して、どのラインまで働くのかを検討してもよいかもしれませんね。


新生活の準備に追われていると、お金の手続きや金額の見積もりなどを忘れて、あとで大変なこともあるかもしれません。年末調整で大きな税額を引かれることになったり、働く目標を明確にせず、扶養が飛んでしまっては「なんて……嘆かわしい!」です。

新生活に備え、お金の知識を身につけ、安心して春を迎えたいですね。

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