『経済政策』行動力発揮も 評価はIR次第 <検証・佐世保市政 朝長市長4期16年④>

経済政策に関する主な動き

 昨年11月28日、佐世保市長の朝長則男(74)は記者会見で5選不出馬を表明した。この日、同市企業立地推進局の元局長、豊原稔(63)の携帯電話は何度も鳴った。相手は朝長が誘致した企業の関係者たち。「残念だ」と、市長の退任を惜しむ声が相次いだ。
 豊原は2020年3月まで企業誘致を担当。全国の企業と地道な交渉を重ねてきたが、「最後はトップセールスで決まる。市長は相手の心をつかむのがうまい」。
 14年に造成した市営工業団地「ウエストテクノ佐世保」は10年で完売するのが目標だったが、半分にも満たない4年半で埋まった。朝長が市長就任後に生み出した雇用効果は約3900人に上る。
 朝長が持ち前の「行動力」を最大限発揮したのが、10年のハウステンボス(HTB)救済だった。
 前年夏、HTBは経営危機が表面化。支援企業探しは難航した。朝長は助けを求めて奔走。最後は旅行大手エイチ・アイ・エス(HIS)の本社にアポなしで飛び込み、当時会長の澤田秀雄(72)に直談判。その後、協力を取り付けた。同社の経営努力と市の再生支援でHTBは劇的に復活。関係者は「朝長だからできた最大の功績」と口をそろえる。
 手腕は佐世保港への国際クルーズ船誘致でも際立った。14年に大型客船専用の三浦岸壁を整備。17年に国は同港を「国際旅客船拠点形成港湾」に指定し、翌18年には寄港数が初めて100隻を超えた。
 観光地としてのブランド力を高めるため、地域資源を磨く取り組みも推進した。九十九島の非政府組織「世界で最も美しい湾クラブ」加盟認定を主導。世界文化遺産の構成資産「黒島の集落」や、日本遺産の「鎮守府」と「三川内焼」をアピールした。
 市内の観光客数は18年に過去最多の約601万3千人を記録。市議10期目で歴代市長を見てきた市岡博道(71)は朝長の経済政策について「その時々に必要な事業を組み立て、タイミングよく着手する」と舌を巻く。
 しかし、新型コロナウイルス禍で状況は暗転した。21年の観光客数は約314万6千人まで激減。客船の増加を見込み、浦頭地区に整備した岸壁や佐世保クルーズセンターは供用開始ができないまま。19年に造成した佐世保相浦工業団地の分譲も進んでいない。
 こうした中、県と取り組むカジノを含む統合型リゾート施設(IR)誘致は22年春に国への認定申請までこぎ着けた。ただ、国内初となるIRは、ギャンブル依存症や治安悪化、交通渋滞など生活環境への影響も懸念され、市民にどれほどの恩恵があるのか不透明な面がある。認定の可否も含め、その結果次第で朝長市政の経済政策の評価は大きく変わる。=文中敬称略= 

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