“行政と民間の距離近い” 東彼杵3町、単独運営の利点と負担 各町とも庁舎建て替えへ

町の垣根を越え市民グループが連携して開催した昨年11月のカレーフェス=川棚町小串郷、大崎シーテラス(実行委提供)

 1999年から2010年の「平成の大合併」。東彼杵郡の川棚、波佐見、東彼杵の3町は単独での生き残りを選択した。70代の男性会社役員は「結果論だが、波佐見焼やそのぎ茶の認知度向上など、個性あるまちづくりができている」と一定評価する。
 県内の自治体は79市町村から21市町に減少。合併によるスケールメリットを生かし、行政運営や公共施設整備の効率化を目指していた。3町は2002年、新市誕生を目指し法定合併協議会を設置。しかし、折り合いは付かず、3年後解散した。
 合併しなかったことで生じる負担は、庁舎建て替えで浮き彫りになった。3町の役場庁舎はいずれも昭和30年代の建築だったため耐震基準を満たしていなかった。法定協議会では、国から「合併特例債」として財政措置が受けられる合併後10年内をめどに、新庁舎を設けると申し合わせていた。
 各町は基金を積み立て、独自の整備を余儀なくされた。人口約1万3300人の川棚町は約16億円の事業費で昨年、新庁舎が完成。約1万4200人の波佐見町も来年1月の業務開始を目指し、現庁舎の北側で新庁舎建設が進む。約22億円を計上した。残る人口約7500人の東彼杵町も庁舎を新築移転する方針は定まったものの、基金は積み立ての途上。整備の道すじは立っていない。
 東彼杵町の40代の男性会社員は「普段行かない場所なので関心がない」と冷ややか。町の担当者は建築から61年がたった庁舎は県から「防災庁舎として不適」と指摘されており、「巨大地震発生時、行政が機能しなくなる恐れがある。可能な限り迅速に災害に強い庁舎を整備したい」と理解を求める。
 負担の一方で、人口規模が小さい「町」ならではの利点はあるという各町民の声は少なくない。波佐見町で教育など幅広い分野で活動している陶芸家の長瀬渉さん(45)は「ちょうどいい規模感」ととらえている。
 ものづくりと観光を組み合わせたクラフトツーリズムにも関わる長瀬さん。長崎市と合併したある町について「道路は良くなったが、地域を動かしていた旧町職員が市役所に移り、かつての役場が出張所のようになった。地域の活動が鈍くなった印象はある」と振り返り、「同じことが波佐見でも起きたら、今のような活動はできないかもしれない。行政と民間の距離が近く、小回りも効いている」。
 市民グループは各町のサポートを受け、町の垣根を超えて有機的に連携している。川棚町の大崎半島を拠点に観光まちづくりに取り組む前平泉さん(58)は制服リサイクルやサークル活動で、他町とも連携。環境や国際交流をテーマに大崎海水浴場で開いたイベントも他町の仲間がサポートした。「観光や福祉、環境など各町のグループの得意分野をつなげたり、郡全体で後押ししたりする仕組みがあれば、地域の困り事の解決にもつながるのではないか」と町の垣根を越えたまちづくりを展望する。


© 株式会社長崎新聞社