「ゴールではなくスタート」譲渡用・終生飼育の猫シェルター開所 老いも若きも 一つ屋根の下

インタビュー中にもじゃれてくる猫たちに思わず笑顔を見せる山野さん=長崎市香焼町、咲く猫plus

 譲渡を待つ若い猫と最期の時を過ごす老いた猫が一つ屋根の下で暮らす施設「咲く猫plus(プラス)」が長崎市香焼町に完成した。譲渡用と終生飼育のシェルターのほか、飼い猫を有料で預かる老猫ホームとホテルを併設する。
 同市の一般社団法人長崎さくらねこの会が2月22日の「猫の日」に開所した。山野順子代表理事(51)は「支えてくださった皆さんにいい報告ができる」とほっとした表情を見せる。
 昨年4月、同会はシェルターの開設を目指し、クラウドファンディング(CF)を始めた。寄付を募る文章のタイトルには「行き場を失う長崎の猫たちを助けたい」「野たれ死にゼロを目指して」と記した。
 思いの原点は2017年夏、捨てられていた5匹の子猫を助けられなかった山野さんの苦い経験だ。意を決して翌18年、同市魚の町を拠点に1人で活動を始めた。当時、地域には不妊・去勢せずに餌やりを続けている人がいて野良猫が約40匹まで繁殖していた。ふん尿被害を受ける住民からは厄介者扱いされ、病気や事故で治療が必要な猫もいた。人間の都合で捨てられ、本能で繁殖していく。「猫に罪はないのに」ともどかしかった。
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 野良猫を捕獲して不妊・去勢手術を受けさせた後、地域に戻して餌や猫用トイレを管理する地域猫活動。山野さんは少しずつ手術を進め、毎朝4時から餌やりやトイレの掃除をした。猫との関わりを深める中、「のんきに暮らしているようでも外で生きていくのは過酷」。中でも冬を越える年老いた猫を「どうにかしてあげたかった」。
 こうした思いが募って「咲く猫-」の構想を進めた。CFには約2カ月間で目標額を超える643万1千円が317人から寄せられた。「うれしくて、ありがたくて、涙が止まらなかった」。ただ、想定外の苦労も。ロシアによるウクライナ侵攻で資材が高騰したり、納期が遅れたりした。支えてくれたのは会のメンバー。みんなでペンキを塗ったり、壁紙を貼ったりしてコストを抑えた。
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 開所日に取材で施設を訪ねると、2匹の老猫が暖かい部屋で寝転んでいた。地域猫だったが終生飼育されることになった。別の部屋には里親を待つ若い13匹が元気に走り回り、数匹は山野さんにじゃれた。「ミルクボランティアをした子たちです」と山野さんは笑顔を浮かべた。捨てられ、寒い中でおなかをすかせたり、多頭飼育崩壊から保護されたり、過酷な環境を強いられた猫たちが幸せそうに暮らす。
 山野さんは「今、長崎は動物愛護の分岐点」と言う。全国でも殺処分が多い本県だが、長崎市は昨年7月に動物愛護条例を施行。大石賢吾知事は猫や犬の「殺処分ゼロ」を掲げて政策を打ち出し始めるなど変化の兆しがある。
 たった1人で始めた活動に仲間が加わり、行政機関やボランティア、自治会などと連携できるようになった。寄付を生かして施設ができた。「やっとここまできた。でもゴールではなくスタートです」


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