国際女性デー

 将棋のことはてんで分からない身だが、才気あふれる棋士が残した言葉ならばいくつか知っている。永世棋聖の米長邦雄さんはベテランになって、ずっと年下の羽生善治さんに名人位を奪われた。勝てないわけを講演会で語っている▲「年配棋士は、得意の戦型を用いて勝った記憶が忘れられない。もう通用しなくなっているのに…」。「失敗は成功のもと」というが、時としてその逆もある▲1970年代からこっち、日本社会も同じように、成功したつもりが本当は坂を転がっていたらしい。以前の紙面に載った、京都産業大の伊藤公雄教授の評論が鋭い。日本で男女間の格差が広がったのは「“成功体験”から抜け出せなかったからだ」と書いている▲男性は長時間労働で年収をぐんと増やす。女性は家事、育児、介護を担い、育児のあとは「安い賃金の非正規労働」に従事する。そうした仕組みをつくり、その果実として豊かな社会を手にしたと思い込んでしまった、と▲行き着いた先はどうだろう。豊かな時代はとうに去り、働く女性の半数以上がパートやアルバイトで、女性の平均給与は男性の7割…。現実は厳しさを増す▲きょうは「国際女性デー」。その古い仕組み、もう通用しなくなっているのに…。そんな声に耳をすまし、かみしめる日にしたい。(徹)


© 株式会社長崎新聞社