海外での売上が伸長!業績好調な老舗の筆記具メーカー・三菱鉛筆は過去最高益を超えられるのか?

高校1年生の娘の筆入れは、ちょっとした化粧ポーチくらい大きい。シャープペンシル、蛍光ペン、多色ペン、その他もろもろ……いったい何本のペンが入っているのでしょう。

一方、わたしの筆入れには、4色ペンが1本、サインペンが1本、赤ペンが1本のみ。ほとんどの記録をデジタルデバイスで行なっているため、アナログの筆記具を使うことがめっきり減ってしまいました。そのため、筆記具メーカーを投資対象として意識したことはほとんどありません。

ところが、日本の筆記具が海外で人気と、あるテレビ番組で紹介されており、俄然興味が湧いてきました。直近、海外売上比率が急増している三菱鉛筆(7976)の決算短信を見てみましょう。


老舗の筆記具メーカー・三菱鉛筆の業績は?

2023年2月13日(月)に発表された2022年12月期本決算は、①売上高68,997(百万円)、②前年同期比+11.5%、③営業利益9,243(百万円)、④前年同期比+22.9%と2桁の増収増益で着地しています。たしかに業績好調です。

画像:三菱鉛筆「2022年12月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」より引用

⑤経常利益は10,128(百万円)と、営業利益に比べるとやや大きめですが、⑥前年同期比+21.9%と営業利益の伸び率とほぼ同じです。今期は、急激に為替が円安にふれたため、営業利益に比べて、経常利益の伸び率が高い企業が目立ちましたが、同社は事情が違うのでしょうか?

損益計算書を見てみましょう。

画像:三菱鉛筆「2022年12月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」より引用

経常利益に寄与しているのは、①受取配当金と②為替差益だと分かります。どちらも前年と比べてほぼ同じ数字なので、同社に関しては営業利益と経常利益の差は、わりと通例と考えてよいと思います。

ちょっと寄り道しますが、配当金が多いので、資産も気になりますよね。貸借対照表を見てみます。

画像:三菱鉛筆「2022年12月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」より引用

投資その他の資産で、投資有価証券が16,497(百万円)とあります。同社の規模としては、有価証券が厚いので、配当金が多めなのも納得です。

業績に話しを戻すと、着地した2022年12月期は、非常に好調で、コロナ禍の落ち込みからは完全に回復しています。

画像:三菱鉛筆「2022年12月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」より引用

2023年12月の予想を見ると、⑦売上高は70,500百万円とこちらは過去最高値。ただ、残念なことに、営業利益は⑧9,500(百万円)で、2015年12月期につけた営業利益の最高値11,853(百万円)円には、あと一歩届いていません。これを超えてくる可能性はあるのでしょうか?

決算説明補足資料で探ってみましょう。

画像:三菱鉛筆「2022年12月期 決算補足説明資料」より引用

連結営業利益の四半期ごとの推移で、4Qの営業利益を見ると、3年連続で増益しており、とくに①直近の4Qは、前年同期比でぐいっと伸び率が高まっていることが分かります。売上利益ともに1Qの数字が大きいのは、新年度準備で3月に文具が売れる季節性のせいでしょう。この流れでいくと、次の2023年1Qは、②2022年1Qの3,204(百万円)を超えてきそうです。

あのサインペンが欧米で人気に

製品別の売上構成比率をみると、サインペンの構成比が23.1%から25.3%へと存在感を高めています。三菱鉛筆のサインペンといえば「POSCA(ポスカ)」。発売から30年以上愛されていますので、使ったことない方は、ほとんどいないのではないでしょうか? 学生なら、文化祭や委員会のポスターは、きっとPOSCAで描いたはず!

画像:三菱鉛筆「2022年12月期 決算補足説明資料」より引用

じつはこのPOSCA、「アート&クラフト」ペンとして欧米で需要が高まっています。豊富な色ぞろえ、ペン先の太さのバリエーション、重ね書きもオッケー、ガラスや写真、さらにはどんぐりや葉っぱの自然素材にまでクリアに描けるジャパンクオリティが、世界のアーティストに認められたとて、なんの不思議もありません。

実際、同社の海外売上比率は、国内売上比率と逆転し、50%を超えてきました!

画像:三菱鉛筆「2022年12月期 決算補足説明資料」より引用

創業150周年を迎える2036年には、国内筆記用具事業300億円、海外筆記用具事業700億円と、海外売上を倍以上に拡大させるビジョンを描いています。売上増とともに、営業利益も成長し、過去最高益を超える夢は、わりとビビッドに描けるのではないでしょうか?

画像:三菱鉛筆「2022年12月期 決算補足説明資料」より引用

環境保全にも積極的

世界的に環境に対する意識が高まり、企業サイドも対応がのぞまれつつあります。そんな中、同社はサステナブルな事業体制構築に向ける活動を積極的に行なっております。

たとえば、国内で回収された海洋プラスチックごみと使い捨てコンタクトレンズの空ケースからリサイクルした「ジェットストリーム 海洋プラスチック」を開発したり、使用済みのプラスチック製ペンの水平リサイクルを開始したり。こういった姿勢は、投資家からの評価向上にも直結しています。

業界1位のパイロットに追いつけるか

筆記具業界で、国内売上1位は、パイロットコーポレーション(7846)で、残念ながら三菱鉛筆は2位に甘んじています。直近の実績売上高でみるとパイロットが1,128億円、三菱鉛筆は689億円と、2倍弱の差をつけられています。

パイロットといえば、なんといっても消えるボールペン“フリクション”という金の卵を持っています。当然、こちらも海外で人気が高く、海外売上比率は76%と、一歩先を進んでいます。

ところが面白いことに、2社の株価を比べると、去年の11月以降、三菱鉛筆は上昇傾向、パイロットコーポレーションは下落傾向と、明暗がくっきり分かれています。

画像:TradingViewより

パイロットの2023年2月13日に発表された2023年4月期第2四半期決算は、①売上高112,850(百万円)、②前年同期比+9.5%、③営業利益21,244(百万円)、④前年同期比+9.9%と、1桁の増収増益。悪くはないですが、2桁増収増益の三菱鉛筆と比べると、やや見劣りします。

画像:パイロットコーポレーション「2022年12月期決算短信〔日本基準〕(連結)」より引用

伸び悩んだ理由は、米国市場において在庫削減などの影響をうけたこと、欧州市場においては、景気交代の影響を受けたことが挙げられています。海外売上比率の高さが、かえってマイナスに作用したようです。

財務盤石、PBR1倍割れとなると…

ここのところ、株式市場で物色されているのが、PBRが1倍を割れている銘柄。PBRとは、その企業の株価が割高か割安かを評価するために使用される指標です。

2023年1月に東京証券取引所が、市場再編区分の見直しに関するフォローアップ会議を開催。継続的にPBRが1倍割れの会社には、2023年春に開示を強く要請すると発表したことで、該当企業が震撼しました。

事実、この発表後に、テクニカル的にPBRを向上させるため、自社株買いを発表する企業がポコポコと発生しています。大規模なところでは、シチズン時計(7762)が上限400億円、発行株数に対する割合25.61%の異次元自社株買いを発表。翌日から株価は急騰し、PBRは0.95倍まで上昇するという荒技を決めました。

三菱鉛筆のPBRは0.8倍。財務も盤石ですから、荒技を決めてこないとも限りません。創業130年を超える老舗はどんな手を売ってくるのか−−そういった動きにも、ぜひ目を向けてみてください。

※本記事は投資助言や個別の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資にあたっての最終決定はご自身の判断でお願いします。

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