こうのいけはるか(WALTZMORE)- 常に進化を遂げてきた気鋭のアートロックバンドが導く、『CHILDREN』という名の壮大な音楽冒険譚

自主レーベルになり殻を破っていくようになった

──まずは2023年1月25日にWALTZMOREとして2作品目となるフルアルバム『CHILDREN』発売おめでとうございます! フルアルバムとしては2019年7月発売の『birthday』ぶりのフルアルバムってことでしょうか?

こうのいけ:そうですね。

──ということは2019年の5月にWALTZMOREとして活動直後に『birthday』が発売されてから約3年半ぶりですね、WALTZMOREは作品を常に発表してきてフルアルバムという形がなかったということが『birthday』以降なかったということに驚きました。

こうのいけ:WALTZMOREとして活動を始めるタイミングに、当時在籍していたレーベルにワガママを聞いてもらって最初のフルアルバムとなる『birthday』を作らせてもらったんですが、そこからコロナ禍に入ってしまったことでアルバムを出すということに対して世の中の雰囲気的にも慎重になったんですよ。それで動き方としてE.Pやシングルを発表していく方向で進めていたのですが、2022年5月に“FLOWERCHILD.”という自主レーベルを立ち上げて、そこからまたやりたいことをやろうと思ったタイミングでフルアルバムを作ろうと思って、今回ついにリリースをすることができました。

──なるほど。自主レーベルを立ち上げてから1年経たないうちにフルアルバムリリースってすごいことですね。

こうのいけ:今回、フルアルバムをリリースできたことってクラウドファンディングの存在がとても大きかったですね。クラウドファンディングを始める際にも、ファンの方々からの協力をしていただくのであればやっぱりでっかいことやりたくて。その一つの答えとして、自分たちなりのでかいことが今回のフルアルバムリリースに至りました。

──自主レーベルとして活動をし始めてからのWALTZMOREって、これまでと動き方が明らかに変わった感じがします。WALTZMOREのイメージってなんとなくファンタジーな存在というか、空想の中にもしかしたら住んでいるかもしれないっていう存在感でしたけど、すごく人間味を感じるようになりました。

こうのいけ:言われてみれば確かに自主レーベルになってから、周りからの僕らに対する印象とか、見方も変わった気がします。正直、今までのWALTZMOREって周りの演者の方からも少し遠い存在というか、どことなく近寄り難い存在っていう印象を持たれがちだったんですけど、そこを払拭したいなと思ったのがちょうど自主レーベルになったタイミングでした。自主になるからやはり仲間が欲しくて、それまであまり交わることのなかった世代とかジャンルに歩み寄ることを心がけて、ライブ本数も積極的に増やすように動きかけました。

──音楽性や世界観は一貫してこれまでのWALTZMOREが在りつつ、今までのWALTZMOREって泥くさいとかとの言葉からかけ離れてる存在だったので、すごく人間味があるというか、温度が伝わってくるようになりました。

こうのいけ:これまで積み上げてきたWALTZMOREとしての品というのは大事にしているし、反面で僕自身が人がとても好きだから、まず自分がもっと殻を破れば何か変わるんじゃないかと思って動くようになりました。

WALTZMOREとして“バンド”らしい作品を作りたい

──活動直後の発売された『birthday』と、活動4周年目を目前とした今回リリースされた『CHILDREN』、今のWALTZMOREが生み出した作品として、作り手側として大きな変化ってどういうところだったんでしょう?

こうのいけ:一番わかりやすいのは『birthday』はまず僕ともう一人、元メンバーとまず曲を作って、そこから一緒にアレンジをしてメンバーに持っていくルーティンだったんですけど、今回の『CHILDREN』は僕がまず一人でデモを作ってメンバーに聴いてもらうか、もしくは最初からメンバーみんなとスタジオに入ってセッションで一から曲を作った曲もあったりしたところですね。これまでWALTZMOREって“バンド”ではなくて“音楽集団”っていう呼び名を使っていたんですけど、決定的に変わったことは今回の『CHILDREN』はWALTZMOREとして“バンド”らしい作品を作りたいと思って作りました。やっぱりバンドが好きなので、自分が思うバンドに対するロマンのようなものを詰め込みたいなと。

──今までのこうのいけくんの音楽活動の歴史とか見ていると、なんとなくバンド結成とかのタイミングがこうのいけくんを変えたというよりも、WALTZMOREとして活動したこの3年半のどこかで大きく変わるタイミングがあったのかなと思います。これだけ長くバンド活動をされてきたこうのいけくんが、そもそもどうして自主レーベルで挑戦したいと思ったのでしょう?

こうのいけ:WALTZMOREってけっこう大人からすると扱い辛い存在だという自負があるんですけど(笑)、僕自身の音楽もすごく作品によってカラーが全然違うし、作品によってイメージをどんどん変えたくなってしまう人間で、そんななか当時在籍していたTONIGHT RECORDSというレーベルは僕の曲とWALTZMOREの音楽を信頼してくれて。在籍中もたくさんリリースさせてもらっていたんですけど、ふと自分自身がもっとWALTZMOREの世界に向き合って、心の底の部分を表現したいなと思うようになったタイミングがあって、考えた末にまず最初に「クラウドファンディングをやってみたい」って周りに言ったんですよ。2021年に『flowers』という作品をリリースしたんですけど、全然伸びなくて。今となっては理由がわかるんですけど当時は伸びない理由が全くわからなくて、そのタイミングで「このままだとWALTZMOREが萎んでいってしまう」って危機感を覚えたんです。それで今こそ再生のタイミングなんじゃないかと考えたときに「クラウドファンディングをやってみたい」って。自分でも何で「クラウドファンディングをやってみたい」っていう発想になったかはわからないんですが、なんとなく絶対にやったらいい気がするっていう根拠のない自信があって。ただクラウドファンディングをやるとなるとレーベルに在籍させてもらってる状況だとただのお金稼ぎみたいに見えてしまうので、であればまず自分たちの今の周りの環境をまっさらにしてみて、やるしかない状況を自分たちで作ってしまえば、あとはもうもうやるしかないじゃないですか(笑)。それに環境が変わってもファンの方たちとの絆は揺るがない自信があったし、であればWALTZMOREのことを応援してくれているファンの方々とみんなで一から始めてみようと思ったんです。だから始まりは「自主レーベルで何かやってみたい」ではなくて、「自分たちの力で何かやってみたい」というやりたいことが先行した結果、自主レーベルという形になったといった感じですね。

──そうだったんですね! ちょっと思いかげない流れでびっくりしました。

こうのいけ:自分たちが必死に生み出した音楽がその先どういった施策をして、どういったプロモーションをして、その結果どれだけの対価が生まれるのかっていう仕組みと結果をしっかり理解していないと、この先の音楽業界で戦い続けられる可能性ってかなり低いなって思ったんです。戦ってその先で生き残る術として、今自分自身の力にするためにも自主レーベルでやってみたいと思って今の活動形態に至ります。

『CHILDREN』という言葉をアルバムタイトルに選んだ理由

──そういった状況下で生まれた今回の『CHILDREN』って、また“チルドレン”っていうタイトルが今までのWALTZMOREの作品のタイトルとか、ちょっとこれまでのWALTZMOREの日常と非日常の狭間の世界観よりも入口としては日常を連想させるのに繋がりやすいなって印象として受けました。ただやっぱりWALTZMOREだなって思うのが、子どもたちっていう明確な言葉に思えるのに、実際考えてみるととても抽象的な言葉だなと、それを今回のタイトルにつけるのはやっぱり罪だなって思いました(笑)。

こうのいけ:確かに(笑)。

──WALTZMOREとして活動して間もなく4周年を迎えるタイミングで、みんな大人になった、だからこそイメージ的に“アダルト”とか付けるほうが流れ的にはハマるのかなと思ったのですが、このタイミングであえて“チルドレン”って言葉を選んだ理由ってどういうことなのでしょう?

こうのいけ:純粋に今までで一番ピュアな気持ちで曲を作ったから“チルドレン”って言葉になったのかな思います。僕が考えるアーティストの創作の源って幼い好奇心が30代、40代になってもなおどこかにずっと在り続けられるから生み出し続けられるんじゃないかなと思っていて。創作する上で僕自身の中にあり続ける子どもの部分に今回よりちゃんと向き合って生まれたのが『CHILDREN』です。向き合って、今まで自分が生み出した作品を見返してみると、ずっと誰かに見られている自分というのを気にして作っていたように今の僕には見えて、カッコがつかなくても振り絞って歌ってたときの自分を思い出す立ち返りのきっかけになって、自分が幼い頃に聴いたロックの原体験みたいなのも込められたと思うし、歌詞とか見てもらうと気取ってない言葉を綴ることができたというか。そこを含めて自分たちが幼い子どもになったという意味を込めて、今だからこそ『CHILDREN』という言葉をタイトルに選びました。今回の『CHILDREN』のコンセプト的には僕らの自主レーベル“FLOWERCHILD.”という名前から因んだのもあるんですけど、【子どもたちが旅をしている中で出会った人たちの歌】といった裏テーマがあって、一枚のアルバムの中にいろんな登場人物がいるオムニバスのような作品にしたいなという意味も込められています。

──改めてそういう背景を聞くと、より『CHILDREN』っていうタイトルはすごく深くて、今のWALTZMOREにぴったりなタイトルだなって感じます。さっきも言いましたけど“CHILDREN”って答えではなくて、“CHILDREN”という言葉から答えに辿り着く手引きの意味合いがすごくいいですね。

こうのいけ:今の音楽って簡潔で、意味が一つで伝わりやすいものが求められている時代に移り変わってる気がするんですけど、僕が好きな詩だったり言葉って答えが一つじゃないんですよね。だから僕は聴いてくれた人がそこから「この人は何を考えているんだろう?」って探りたくなるような曲や、作品をこれからも作っていきたいなって思っています。

──こうのいけくんが今言ってくれたように今の時代の音楽って生まれたものが答えで、良いのか悪いのかはさて置き、かつ辿り着くまでの道程もとても近くで見られる時代になったので、今回の『CHILDREN』を初め、WALTZMOREの作品って想像させて、自分の中で芽生えたクエスチョンをライブで答え合わせしに行く。やっぱりWALTZMOREって本当にライブバンドだなって改めて思いました。

こうのいけ:嬉しいですね、ありがとうございます。

──あくまで個人的な感想にはなるのですが、これまでのこうのいけくんの言葉とか見えている世界とか、日常の描き方って曇った空に手を伸ばして散らばった光を掴んで手に残る光から語りかけてくれる音楽や言葉って印象だったのですが、今回の『CHILDREN』はすごく実体がはっきりとあって、そこに向けて手を伸ばして掴んで、ただそれはやっぱり答えではなくて、その先のストーリーを自分で描くのツールというか、「まだこんなことができるのか…!」って思って正直びっくりしました(笑)。

こうのいけ:「エモーショナルだね」って言葉をかけていただくことがとても多くなったなっていう感覚はあります。正直、もう2023年に使わなくなった言葉じゃないですか(笑)。でもすごく言われることが増えました。ここからは推測ですけど、“エモーショナル”って言葉を当時のロックやライブハウスに通っていた人たちが好きになってくれてるのかなって思いました。“美しい”とか“透明感”とか“儚い”とかは昔から言ってもらってえてきていたんですけど、でも付随して“力強い”とか“エモーショナル”とか言葉をかけられることが増えて、とても嬉しいですね。

バンドとして挑戦的な意味合いが強い東名阪のファイナルシリーズ

──WALTZMOREってこれまでのバンドのイメージだけで言うと、クールで汗水一つこぼさないようなバンドってイメージでしたよね。

こうのいけ:僕今27歳なんですけど、この歳になってそういう言葉をかけられるようになって、「普通、逆じゃない?」って思いますけどね(笑)。

──確かに(笑)。そんな現役バリバリのWALTZMOREが今回この『CHILDREN』を掲げて絶賛全国ツアー中(3月1日段階)で、数本回ってみて何か感じたものはありましたか?

こうのいけ:地方ってなるとどうしても都心でのライブみたいにお客さんの数だけ見てしまうと難しい場所ではあるんですが、30分とか35分のステージに向けて何倍もの時間と労力をかけて行くことって、やっぱりこちらとしても全然違うんですよね。しかも今回のツアーは全国各地で僕が好きなバンドや仲良いバンドに出演してもらえることって、少し前だとあり得ないことだったのでその点も今回のツアーはこれまでと違うなっていう感覚がすごく強いです。あとは『CHILDREN』を生み出して今のWALTZMOREなら大丈夫っていう確固たる自信があります。今までのツアーだとどこかで「大丈夫かな?」って思う部分も正直あったんですけど、今回は「今のWALTZMOREなら絶対大丈夫」ってメンバーの共通意識として掲げて回れている部分がこれまでと明確に違うところです。これは僕個人の意見ですが、今回ツアーで出演を決めたくれたバンドさんたちみんな即決で出演快諾してくれて、ツアーで一緒に対バンしてくれるバンドさんを始め、「今のWALTZMOREだったら何かやってくれそう」って思ってもらえてるのかなって勝手に思ってます。ただ『CHILDREN』の新曲たちがめちゃくちゃ難しくて、これはなかなか手強いなっていう段階です(笑)。

──WALTZMOREとしてこれから先、5年後、10年後、どんな音楽をやっていきたいですか?

こうのいけ:直近としてやりたいなと思っていることは、僕1995年生まれなんですけど、物心つき始める1998年〜1999年ぐらいで、そこから音楽というものを認識し始めて2000年ぐらいにTVとかから流れてたROCKとかJ-POPのリアルなノスタルジーを自分らの音楽からリバイバルしていきたいなってなんとなく思ってます。僕のやりたいことって日々ストライクゾーンを外していってる感じはするんですけど、でも続けていけばきっとこの先何かが起こる気がするっていう自信がなぜかあるので、僕のやりたいことには忠実にやっておこうって。だから5年後、10年後の自分が何をやりたがっているのかが見えないのが正直なところです。

──逆にそれってすごく良いことですね、理由はよくわからないけどなんだかこのバンドならやってくれそうって見てると思えるようになりましたし、でもその“理由はよくわからないけど”って一個一個の理由と結果の積み重ねだと思います。

こうのいけ:ガムシャラに、焦らずやっていきたいと思います。

──東名阪のファイナルシリーズも対バンも解禁されましたね!

こうのいけ:今回のファイナルシリーズは4月12日(水)名古屋がpostman、4月13日(木)大阪がclimbgrow、ファイナルの4月29日(土)の東京がアメノイロ。とそれぞれツーマンなんですが、この3組は僕がリスナーとしての原点、バンドを始めてから、そしてバンドを続けてきた今の自分の歴史を辿りつつ、音楽的にリスペクトしている存在をツーマンで呼ばせてもらいました。名古屋と大阪に関してはこれまでWALTZMOREでツーマンライブの経験もないですし、3組とも対バンの回数も多いわけではないので、WALTZMOREとして挑戦的な意味合いが強いです。ただ絶対成功するだろうなっていう謎の自信があります(笑)。どんな音楽でもバンドでもいつかは必ず終わりが来ると思うんですけど、まずは今WALTZMOREを好きでいてくれている人たちにどんな終わりが来るのかを見届けてほしいですね。そういう意味でやっぱりバンド活動って旅だなと。その旅路に一緒に加わるような気持ちで、これからも応援してほしいです。

──これからもたくさんの人にWALTZMOREの音楽で、誰かの物語を彩り続けてください。今日は本当にありがとうございました!

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