「催眠術にかかったみたい」歌手の日野美歌さん、特殊詐欺経験語る「身内や他人に相談して」

自らの経験を基に特殊詐欺への注意を呼びかける日野さん=15日午後、加賀町署

 「累積医療費の払い戻しがあります。手続きに必要な書類を送付していますが、届いていますか?」

 今月3日午前11時ごろ、横浜市の自宅に「区役所健康保険課のマツカワ」と名乗る男から電話があった。電話を受けたのは、歌手の日野美歌さん(60)だった。

 「届いていなければ代わりに銀行で手続きが必要になる」と言われ、日野さんが持っている口座の銀行名を答えると、次はその銀行の職員を名乗る男から電話があった。

 「ATMに行って手続きをしてください。書類が出てくるシステムがあるのはここだけです」と具体的なATMの場所を指定された。

 日野さんは「書類が出てくるシステムって何?」と思いつつも、「自分が知らないことがあるのかな」と考え、指示されたATMに向かった。当然、“書類が出てくるシステム”などない。約束の時刻になると銀行職員を名乗る男から携帯に電話があり、指示に従ってATMを操作した。「これってさあ、詐欺っぽくない?」と日野さんが問うと、相手は「大丈夫です。違います」ときっぱり。医療費の払い戻しのはずが、逆に振り込む操作をしているとは思わなかった。

 この手続きを身内に話すと「詐欺だよ」と言われ、はっとした。男から再びかかってきた電話に身内が出て、事情を問い詰めると相手は電話を切った。詐欺だと分かりすぐに銀行へ駆け込み確認すると、約20万円を送金していた。ただ、詐欺グループに現金は渡っておらず被害を免れた。

 つい最近こうした経験をした日野さんは15日、加賀町署の「詐欺被害防止アドバイザー」に就任。「私の実体験を通じて、一人でも多くの方の詐欺被害を防止したい」との思いで引き受けたという。

 就任式で集まった関係者を前に、「犯人は言葉巧みに私たちをだます。催眠術にかかったみたいになってしまう。それが一番怖い。お金のことは一人で決めずに、身内や他人に相談してほしい」と呼びかけた。

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