「大事なものを絵で残したい」画家・松村さん フッテージペインティング取り組む

「自分の大事なものを絵で残したい」と前を見据える松村さん=みらい長崎ココウォーク

 長崎市を拠点に活動する画家の松村優里香さん(26)は、動画をコマ割りにして1枚の絵画に表現する独自の表現技法「フッテージ(映像)ペインティング」に取り組む。どんな瞬間もスマートフォンで簡単に記録し共有できる時代に問題提起しようと制作。「(自身も含め)画面の中で世界を感知していることに危機感を抱いてきた。大事なものを絵を通して残したい」と意欲を示す。

 松村さんはデザインを学んでいた学生時代から現代アートに関心を持ち、洋画の勉強にも打ち込んだ。卒業後は仕事の傍ら、インスタグラムでイラスト投稿などを続けた。
 フッテージペインティングのきっかけは2年前の祖父の死だった。亡くなった日に祖父が約50年前に撮影した8ミリフィルムの映像を見た。子どもだった母や庭いじりをする若い祖父の姿がいとおしく、忘れないように絵にしたいと考えた。同時に、スマホですぐに写真や動画を撮ろうとする自身の行為と比べてみた。「当時は気軽に記録できなかったはず。今は何でも手軽に撮れるけど、目に焼き付けてはいないのではないか」
 試しに8ミリフィルム数秒分のコマをアクリル絵の具で描いてみた。小さい頃の母の一瞬一瞬の表情が愛らしく、撮影していた祖父の愛情を感じながらキャンバスに色を乗せている感覚に満たされた。時間の新たな表現を見つけたことにも手応えを感じた。
 21日まで同市のみらい長崎ココウォークで開催中の個展では、海面を撮影して絵にした作品を展示している。8ミリフィルムに続く題材に悩み、動画投稿サイトやアプリの動画を惰性で見ていた昨年夏。散歩に出かけた長崎港でキラキラと光る波に心が洗われ、美しいものを見過ごしていた自分に気づいた。
 2カ所の海で動画を撮影し、油絵の具やアクリル絵の具で3コマを描いたパネルを五つ並べて横長の作品に仕立て、眼前に海が広がる臨場感を表現。一つ一つのコマはTikTokやインスタグラムのショート動画を意識して縦長に描いた。「インターネット世代の自分には縦長の画面がしっくりくる。でも自分への影響の大きさを突きつけてくるようで怖い」と苦笑する。
 題材としての海への思いも再認識した。不登校になった高校時代、家族に連れ出してもらった海での時間はかけがえのない経験で制作中も気持ちが整った。「海は楽しくても悲しくても訪れる場所。その深みを表現できるようになりたい」
 今後も中央や海外での展示に挑戦して自身の思いを表現していくという。「見た人に考えるきっかけを与えられる作品を生み出したい」と前を見据えた。

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