「人も海も喜ぶ循環を」五島・金沢鮮魚 鮮魚流通の在り方、追求へ

鮮魚の梱包作業を進める金澤さん=五島市、金沢鮮魚

 長崎県五島市富江町の鮮魚仲卸業、金沢鮮魚が、海の環境や資源を守るための取り組みを進めている。プラスチックごみとなる配送用発泡スチロール箱を廃止し、段ボールに変更。未利用魚などを活用した商品開発も手がけ、金澤竜司社長(60)は「人も海も喜ぶ循環をつくりたい」と持続可能な鮮魚流通の在り方を追求する。

●食品ロス低減
 発泡スチロール箱を段ボールに切り替えたのは2年前。下処理した鮮魚を新聞紙などで包んで段ボールに敷き詰め、保冷剤を入れる。年間数千箱使用していた発泡スチロール箱はほぼゼロに。手間はかかるが、昨今の原油高で高騰している発泡スチロールよりも安く仕入れることができ、経費削減にもつながっているという。金澤さんは「保冷剤袋も水溶性に変えたい」とさらなるプラスチックごみ削減を展望する。
 世界の海洋プラスチックごみの流出は推定で年間約800万トンとされ、社会問題化している。自然の中で分解されにくく、生き物の誤飲など、生態系に悪影響を及ぼす。2050年には海洋プラごみが魚の重量を上回るという試算もある。
 同店は「金澤仕立て」と名付けた独自の魚処理方法で、一般的な鮮魚より長く新鮮な状態で保存できるようにした。魚の廃棄など食品ロスを低減させ、飲食店や宿泊施設など取引を広げている。東京都内で日本料理店を経営する本県出身の市瀬賢治さん(37)は「丁寧な処理で、臭みが全くない。鮮度を落とさず使用することができている」と強調。段ボール箱は折り畳んで保管できるため、発泡スチロールのように処分に困らないという。

●異変に危機感
 金澤さんは、磯焼けの原因の一つである食害魚や、規格外の魚を使った商品開発にも取り組んだ。駆除するだけでなく持続可能な環境保全活動や、漁業者の所得向上につなげるためだ。
 7年前から研究し、地元業者と連携して島のツバキから採取した酵母で仕込む魚醤(ぎょしょう)「五島の醤」を開発。20年に販売を始めた。製造過程で出る搾りかすは、市内のスッポンの養殖業者が餌として活用している。
 金澤さんは富江町出身。故郷の海について「子どものころの豊かさと比べ格段に違う」と言う。県外の大学を卒業後に地元へ戻り、父が創業した鮮魚店に携わってきた。資源の減少や環境悪化など異変を感じていたが、約10年前、近海のワカメが全く取れなかったことが突き動かす要因となった。その後も他の海藻類や、サザエやアワビなども激減し、危機感を強めた。
 目指すのは、消費者、取引先、漁師、仲買などの業者の全員が豊かさを取り戻すこと。地元業者でもその思いに共感が広がりつつある。金澤さんは、今後もさらなる循環型の加工品開発を目指しており、「小さな取り組みでも、パートナーと輪を広げ、五島の海を守っていきたい」と模索を続ける。

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