地域体験で子ども育む cotoco(コトコ) 未来に残したい事業者を発信 〈長崎の新興企業④〉

「子どもの個性や好奇心を地域全体で育みたい」と話す柳さん=長崎市古川町

 「子どもたちのエネルギーで発電できるんじゃないか説」-。
 長崎市で子育て中の柳まり子さん(34)は2021年、市などの起業家育成プログラム「コッコデショ」に応募する際、こんな持論で周囲の興味を引いた。実はまだスタートアップという言葉を知らず、具体的なビジネスモデルも持たなかったが、「地域を元気にする存在」の子どもと関わる仕事がしたかった。それが、親子向け地域体験ツアーを企画提供する「cotoco」(コトコ、同市)を起業するきっかけだった。
 子どもが何かに夢中になる姿や表情が好きだという。教員や保育士の道も興味があったが、大学卒業後は銀行などに勤務。結婚し母親になると日々、育児のプレッシャーやわが子の意思を尊重できないもどかしさを抱えた。ハンドメイドの子ども服を個人販売したこともある。そのうち、より深く子どもに関わり、家族の時間も大切にしたいと思うようになった。
 起業家育成プログラム参加中、家族旅行で上五島の漁師の家に民泊。漁船に乗って釣りや魚のさばき方を教わった。地域の人と触れ合い、親だけでは教えられない非日常を体験した子どもたちのキラキラした表情を見て「私がやりたかったことってこれだ!」と確信した。
 学びや好奇心を伸ばす親子体験モニターツアーを22年2月の雲仙市を皮切りに県内で計8回実施した。棚田の保全や漂着ごみ拾い、食育などメニューはさまざま。伝統玩具の佐世保独楽は遊ぶだけでなく、素材の木の見学までして歴史や文化を学んでもらった。
 スタートアップ支援を担う県新産業創造課は、当事者目線でこまやかにニーズをくみ取るメニューづくりに一目置く。柳さんは、地域を歩き、地元の人を通じて「情熱を持っている」「未来に残したい」という事業者を探し出す。交流サイト(SNS)で情報発信しているが、多忙な親まで届き、参加してもらえる方法を模索している。
 メニューの幅を広げようと23年2月に法人化。収益性が課題だが、参加料は抑えたいという。かつて都市部で視察した体験ツアーは高額で富裕層をターゲットにしていた。「夢中になる瞬間はどの子にも平等であってほしい」。代わりに、企業の社会的責任(CSR)の意義から協賛やコラボ企画につなげようと構想している。
 「子どもの個性や好奇心を地域全体で育む輪を広げたい」という柳さん。5歳と3歳の子を保育園に預けると、パソコン1台を持ってあちこち飛び回り、あれこれ未来像を描いている。

 【企業プロフィル】cotoco 体験ツアーのコンセプトは「地域の未来を作る現場を子どもたちの遊び場へ」。地域全体で子どもの個性を尊重し、好奇心を育むことを目指す。coは「共同体(コミュニティー)」の接頭語。「子ども」「個性」「好奇心」の最初の読みでもある。

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